縞々シャフトはなぜ人気?「ツアーAD」のルーツを探る/大人の社会科見学「グラファイトデザイン」(前編)
ゴルフクラブ、ボール、シャフト、グリップ、下巻きテープ…。クラブ業界には数え挙げればきりがないほど多くの会社が関わり、ゴルファーを支えている。各メーカーの戦略や考え方は違えど、誰もがより良いスコアのために日夜開発に励んでいる。そんな彼らの日常の取り組み、ヒット商品を狙う開発の舞台裏を深掘りし、その魅力に迫る企画。今回は日本が世界に誇るシャフトメーカー「グラファイトデザイン社」だ。(前編)
そもそもカーボンシャフトってどうやって作るの?
国内男子ツアーの使用率で長年、上位を走るグラファイトデザインのシャフト。米PGAツアーでもジョーダン・スピースらトッププロが使い、あのタイガー・ウッズも同社定番である縞々模様が入ったツアーAD(VF)を愛用している。そんな“世界基準”の製品が、埼玉県の山深い町で作られているのはご存じだろうか?
「グラファイトデザイン社」の創業は1989年。元々はクラブメーカーのシャフトを作るOEM(委託企業)だった。先代社長・山田恵氏が秩父市に拠点を置き、会社の隆盛と共に同市のトップ企業として認知されるようになった。今や地元の若者たちの人気就職先になっているという。
都心から西武池袋線の特急「ラビュー」に揺られて1時間、取材陣は西武秩父駅に到着した。バスに乗りかえ、荒川を越え、山間に入っていく。面前に広がる緑が色濃くなってきたあたりで、突如グラファイトデザイン社の社屋が現れた。建て替えたばかりという新社屋の横には、創業当初から変わらないシャフトの工場があり、中からはけたたましい機械音が聞こえてきた。同社のシャフトはすべて秩父で“巻かれ”、秩父から世界に出荷されていく。
巻く材料の組み合わせでシャフトが生まれる
社屋に着くなり、創業当初から稼働している工場に案内された。ドアを開けると中は熱気に溢れ、工員たちがせわしなく動き回っていた。一日に、シャフトの巻き担当、検品担当、塗装担当ら総勢70名近くが稼働しているという。
工場の一番奥にある部屋は、扉が厳重に閉められていた。中に入ると室温は約8度。そもそも涼しい工場内でも特別で冷蔵庫の中にいるような感覚を覚えた。
「ここには原反(平べったいカーボンのシート)と呼ばれるカーボンの束が置かれています。カーボンには樹脂が乗っているので、樹脂が溶けないようにこうやって冷やしているんです」。そう説明してくれたのは本吉興毅さん。ツアーレップとしても活躍したキャリアを持つ社歴13年のベテランスタッフだ。
普段何気なく使っているドライバーのシャフトが、どうやって作られているのか―。具体的に語れるゴルファーは少ないだろう。ウッドに使われるようなカーボンシャフトは、原反のかけ合わせで生まれる。原反は航空機の機体などにも使われる、細かなカーボン繊維が編みこまれたモノ。同社は80種類以上もの原反からシャフトを作るという。
シャフトの製作工程は、小さく切り取られた原反を芯棒に沿って幾重にも重ねていく作業から始まる。シャフトの性能は原反の重ね方の“さじ加減”で決まると言っても過言ではなく、例えば一種類の原反を全体に巻き、手元に補強用の原反を巻くと、手元が硬く感じるシャフトが出来上がる。どの原反をどれぐらいの量、どこに巻くかでシャフトの特徴が生まれるわけだ。
「細かい話をいえば、原反とは芯棒に対して全部を巻く材料と、補強用の材料があります。補強材料は斜め45度に巻いていくのですが、この斜めに繊維が入ることがトルクに利くんです。例えばクワトロテックなどは、補強材料を手元側にクロスに入れることで手元を硬くしています。素材そのものもシャフトの性能を左右しますが、巻く角度も大事になってくるんです」と本吉さん。話はディープな方向に展開していった。
“冷蔵庫”の外には原反を芯棒に巻く作業のレーンが4つ。各レーンに4人のスタッフが配置されていた。
「巻き」と呼ばれる職人が1本のシャフトに4人携わり、手作業で順番に原反を巻いていく。彼らの横にはカットされた原反が入った箱が置かれ、それぞれの箱に「先端に入れる」、「手元に入れる」などの指示書(図面)が添付されていた。
「最初の人が1枚目を巻き、次の人が2枚目。どんどんと原反を付け足して4人目で巻き終わる。芯棒側にも線が引いてあり、そこに合わせて巻き付けていきます」。原反を巻き終わったらアイロンをかけ、樹脂を溶かしていく。それで芯棒にカーボンがくっつくわけだ。
「巻き」はベテランスタッフが多い。「(指示書の内容は)みんなけっこう頭の中に入っている」(本吉さん)と言うように、作業を観察していると、みんなテキパキと流れ作業で役目をこなしていた。ちょうど目の前のレーンの箱には「ツアーAD UB」の文字。竹田麗央のシャフトもここで作られていると思うと感慨深かった。
原反の種類は多く、巻きの組み合わせ、巻き方次第で性能の範囲は「無限大」に及ぶ。さらに芯棒の形状でも性能が変わるという。「芯棒の形状=シャフトの内径」で、テーパー(先細りになった形状)が強めで手元が太いもの、テーパーが弱い寸胴っぽいモデルなどがあり、太さもいくつかある。その味付けでシャフトの特性も変わってくるわけだ。
「想像がつくと思いますが、テーパーの強いものは先が走ります。手元側の繊維を強化すればもっと走る。ですから、先調子のシャフトにするときは、まずテーパーが強い芯棒を選んで巻きます。一方、手元系は寸胴の芯棒といった具合ですね」
ちなみに同社最新モデルの「ツアーAD GC」は芯棒が寸胴で太目。「今回は芯棒を新たに設計し直したんです。理由ですか?色々テストしていく中で、その形の評価がすごく良かったんです」。実際に石川遼や上田桃子を始め、新GCに替えた選手は多かった。戦略が見事にハマったと言えるだろう。
芯棒の太さに関しては、「単純に太くすることで硬さが出ます。例えば原反を細い芯棒にいっぱい巻くより、単純に芯棒を太くした方が簡単に硬さが出せます」。ちなみに松山英樹が好む「ツアーAD DI」は、テーパーが弱い細めの芯棒を使っているという。ということは、思っているより軟らかさがあるのだろうか。
巻き終わったら次は「焼き」
さて、工場内に話を戻そう。芯棒に簡易的に原反を巻いたあとは、窯焼きに移る。ここでシャフトの原型ができる。「焼くと巻いた原反がパラパラになりやすいので上からテープを巻きます。しっかりテープで抑えて2時間ぐらい焼いていきます」。焼きあがったら芯棒を抜き、テープをはがす。何度も研磨してテープの跡を落とし、表面をつるつるにする。そして太さと外径が設計通りかを確認して、検品に回される。
「表面に傷があるものは排除します。職人が手で触ってチェックして、表面に傷があれば『アレ?』とすぐ分かりますよ。そのあと光もあて、目でも確認してダブルチェックします」。スクラック(傷)が入っていると、折れる原因につながるという。「高弾性のものなどは特にパリっとなっちゃうので注意が必要です。なんなら巻いている時点でも折れてしまう。それだけ作るのが難しいんです」
アナログでの検品後に機械で性能をチェック。手元、真ん中、先などのキックポイントが正しいか、フレックスなども含めて確認する。一連のチェックを終えた黒い繊維の棒は工場の一角で山積みにされ、隣の工場に運ばれていった。「ここから別の建物で塗装作業に入ります。塗装もダマなどができやすいので、同じように検査をします。塗装傷などがけっこうつきやすいんですよね」
1本のシャフトにかかる長い作業時間と、徹底した品質管理。製品として問題なく思えても、検査ではじかれることもある。これだけの手間、労力の“結晶”と知ると、自分のシャフトへの愛着がさらに湧いてくる。
シャフトの開発は約1年半前から
続いての取材内容は「性能がどう決まるのか」―。同社の定番商品「ツアーAD」は毎年新作が出る。過去、PT、DIなど歴史に名を刻む名器を生んできたのは周知のこと。同社ファンならご存じの方も多いと思うが、「手元系→先系→手元系」と調子違いが毎年交互に登場する。現行の「GC」はやや手元より。その前の「CQ」はまあまあな先調子だった。
本吉さんは「だいたい新作が出る1年半前からプロジェクトは動き出しています」と教えてくれた。現在は来年、26年モデルの開発が進んでいるわけだ。「開発部隊が中心となって次期モデルを考えています。『今のツアープロはこういうリクエストが多い』とか、『あのクラブメーカーがこういうヘッドを作っている』とか、そうした情報を元に試作品を考えていきます。例えばつかまりのいいヘッドが流行っていたら、つかまりを抑えた締まった感じのシャフトを作ろうといった具合です」
試作品が出来上がると、広大なテストセンターでヒューマンテストを行う。計測し、改良を重ねる。さらに計測器を使ってスイング中のシャフトの動きをチェック。開発の狙い通りか、余計な動きがないか、スピン量や距離が劣っていないかも確認する。それでも最後はやっぱり人間の感覚を重視するという。
「最終的に人が振って気持ち良く振れるかが一番重要なんです。振り心地がいいのか悪いのか。悪いならどの部分が気持ち悪いのかを見つけて改良する。そこも開発部隊と意図が揃うようにしていきます」
本吉さんによると、過去には“攻めた設計”など、いくつもアイデアはあったという。だが、そこには常に量産の壁が立ちはだかった。「アイデアはいいけど、すぐ折れちゃうから製品にしづらいというのはよくあります。理想はいいけど数発しかもたないシャフトは、やはり世の中には出せませんからね」。
そこには巻き手の“巻きやすさ”が影響するという。「いい材料があっても巻き手が『巻きづらいです』と言った瞬間に『量産向きじゃないよな』となります。そこの作業効率も極端に落ちてしまう。泣く泣く断念したケースは何度もありますよ」
実に奥深いシャフト開発の世界。後編はトップオブトップのツアープロと共に歩んできたグラファイトデザイン社の歴史を紐解いていく。(取材・構成/服部謙二郎)