ゴルフ界を席巻した強烈スピン 「MT-28」ウェッジが与えた衝撃
ゴルフ界には名器と呼ばれるクラブがある。機能性と造形美、従来の常識を覆す革新性を持ち、それが次なる時代の常識へとつながっていく――。いま手にしているクラブにも隠された系譜があるはず。さかのぼることができたなら、いずれかの名器にたどり着くだろう。
日本からそんな名器を生み出してきたのが、1981年創業のクラブメーカー「フォーティーン」だ。社名の由来でもある「すべてのゴルファーにベストな14本を」という信念が、ゴルフ界の常識を打ち破り続けている。
過渡期にあった単品ウェッジへの挑戦
アイアンセットはPWまで、AWやSWは単品で別のモデルを組み込む。いまではアマチュアにも多く見られるセッティングだが、これが常識となったのは意外にも最近で21世紀に入ってからのこと。大きな影響を与えたのは世界最強の男と、2001年に発売のウェッジ「MT-28」だった。
「当時はタイガー・ウッズの影響で単品ウェッジが注目され始めたころでした。一方で我が社は他メーカーのクラブ設計(OEM)から、自社ブランド製品の製造販売に事業をシフトしなければいけないタイミング。竹林は他社がまだ力を入れていない単品ウェッジに可能性を感じたんだと思います」。そう語るのは、フォーティーン営業部マーケティング担当主事の池田純。彼が口にした竹林とは、2013年に他界した創業者でクラブデザイナーの竹林隆光のことだ。
竹林がこだわったのはアマチュアでも止まる、戻るアプローチが打てるスピン性能。それは、量産品では世界で初めてフェースの溝を彫刻し、溝の鋭さを増すことで実現された。
大反響を呼んだスピン性能
スピン性能の高さはシビアなセッティングでプレーするプロにとっても魅力的だ。国内男子ツアーでは2002年から3年連続使用率1位。プロがこぞって使うクラブはアマチュアにも大人気となる。池田の入社はMT-28の発売と同時期。「営業に配属されたんですけど、仕事は売ることじゃありません。『在庫がありません。納期がかかります。すいません』。そうやって謝るのが仕事でした」。
フォーティーンが先んじていたコンピューターを使ったクラブ開発が他社にも広まってOEMの依頼が減少するなか、MT-28は起死回生の大ヒット。同時に単品ウェッジというジャンルを開拓することになった。
人気の一方では、ユーザーからクレームもあった。「溝に引っ掛かって、ボールのカバーがボロボロになるんです。『溝を加工すれば、ボールに傷をつけにくくすることはできますけど、スピンはかからなくなりますよ』と言うと、大抵は『じゃあいいです』となりましたけどね」。MT-28のインパクトは、フォーティーンの社名に込めた「ベストな14本」というコンセプトとは裏腹な“ウェッジメーカー”のイメージを植え付けてしまうほど強烈だった。