ゴルファーを救う「天職」へと到達したシャフトフィッターの執念
ここ最近、カスタムシャフトのニーズが拡大し、「シャフトで飛距離が変わる」を実感している人が増えているという。シャフトフィッターの職業とその“流儀”を通して、現状に迫る。
■ラウンドよりもクラブの調整が面白かった高校時代
日本を代表するシャフトメーカー、藤倉コンポジットのフジクラゴルフクラブ相談室木場店には、2022年度に2541人のゴルファーが来店した。単純計算で1日当たり約7人の計算。10年前の来店者数は1695人だったことから考えると、それだけアマチュアゴルファーのシャフトに対する意識が変わったといえる。実際、リシャフトしたことで、ゴルフが劇変した人は数え切れないのだという。
同店には現在、4人のクラブフィッター兼クラフトマンが在籍している。その中の一人、シャフトフィッターの小倉健太(敬称略、以下同)は少し変わった経歴を持つ。高校でゴルフ部に入り、初めてクラブを握ったが、先輩からグリップ交換やソールの削り方を教わるうちに、プレーするよりもクラブ自体に興味が湧いたという。
「機械科だったので、ソールを削るグラインダーとか設備が整っていたことも幸いした」。もともと工業系の作業が好きで、クラブの調整を行うことに夢中になった。ソールの削り方によってどのような違いが生まれるのか、それを確認するためにラウンドしていたほどだ。
■フィッターが天職に
機械系専門学校を経て精密機械を扱う会社に入ったが、クラブへの興味は消えず、偶然にも自宅近くにあったフジクラゴルフクラブ木場店に通うようになった。やはり、自分はこの道に進みたいと22歳のときに東京ゴルフ専門学校へ入学し、クラブフィッター、クラフトマンを目指した。「生徒の中でクラブフィッターを希望していたのは僕だけでした。他の生徒は皆、ティーチングプロを目指していただけに、異色の存在でした」
「もともと手先が器用だった」という小倉はリシャフトやクラブに関することに重点を置いて学んだ。卒業後、クラブメーカーに入社する選択もできたが、顔が分からない人のクラブを設計書どおりに作ることに魅力を感じなかった。それよりは、ゴルファーと直接対面し、話を聞きながらその人に合ったシャフトを提供したいと、クラブを組み上げるフィッターの道を選んだ。
生まれも育ちも江東区。2014年にフジクラシャフトのフィッティングや加工販売を行うアールアンドアールフジクラに入社し、それ以来、いまの店舗で働く。「地元だと知り合いも呼べますし、何か縁を感じる」。フィッター兼クラフトマンという職を得た小倉は、まさに水を得た魚だ。
■“生きるスイング解析システム”
フィッターの仕事は、まず来店者の話を聞くことから始まる。「単に自分に合ったシャフトを探しに来た方から、何を使ってもダメで、ゴルフをやめようかなというぐらいに思いつめた方まで幅広くいます。悩みの度合いが異なるので、まずはそこを見極めます」
次に行うのがスイングチェックだ。いざドライバーを持って試打に入るとよそ行きのスイングになりがちなので、まずはウォームアップをしてもらい、その際にさりげなくスイングチェックする。「その時点でどのシャフトが合いそうか、ほぼ分かります。あとの時間はそれを確信に変えていく作業になります」
スイングの特徴としては、アウトサイドインの軌道で打つ人が7割で、スライスに悩んでいるという。フックに悩む人が2割で、残りの1割が真っすぐ打つ人だ。「アウトサイドインの軌道に振っているからこのシャフトという判断はしません。同じ軌道でも先調子のシャフトが合う人もいれば、手元調子のシャフトが合う人もいますから。機械が出した数字だけでは決められないんです」
力の入れ具合やグリップの握り方、ハンドアップかハンドダウンか、前傾角度など、チェックポイントを挙げたらキリがない。そして、数値には表れない視覚情報と頭の中にある経験則も様々につなぎ合わせながら総合的に判断。まさに“生きるスイング解析システム”だ。ちなみに、トップからダウンスイングへの切り返しの「間(ま)」がどれだけあるかが、意外に重要なポイントだという。