人気“鍛キャビ”13モデルを計測して分かった!今どきの「重心距離」の正解は?/'24鍛キャビ研究#2
2024年下期に登場した人気の鍛造キャビティアイアンを掘り下げる特集の第2回。2024年後半に発売され、ツアーでもマーケットでも人気を博しているスリクソン「ZXi7」「ZXi5」とブリヂストン「241CB」「242CB+」。この2シリーズ4モデルを中心に、ヘッドの性能を研究していく。
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この秋“鍛キャビ豊作”につき…「打感がいい」を考える。「241CB」と「ZXi7」はなぜ人気?
クラブ設計家でジューシーを主宰する松吉宗之氏に、上記4モデルとそのライバル、計13モデルの計測を依頼した。番手はすべて7番で、計測項目は下記の通り。
重心距離/重心深度/重心高さ/ロフト角/重心角/FP(フェースプログレッション)/ヘッド左右慣性モーメント(MOI)/ヘッド重量
今回の計測結果において、重心距離にまず注目したと松吉氏。
「プロが使うアイアンとして、重心距離が伸びてきたことがポイントです。昔の7番アイアンは34mmくらいが標準的でしたが、今回の13モデルの平均値は37.2mmでした。重心距離が3mm以上伸びると、ヘッドのターンがかなり穏やかになります」
では、人気のZXiシリーズの数値を見ていこう。
ツアープロもアマチュアも飛びついたZXi7の数値は上記。
「ZXi7は現在のプロモデルど真ん中といった感じの数値です。どこか突出したものがあるわけではなく、全てにおいて好バランス。ツアープロがすぐに飛びついたのも頷けます。ZXi5は重心が低く深く、飛距離性能を重視していることがわかります。アマチュアには大変ありがたく使いやすいモデルですが、プロは賛否が分かれるかもしれません」
ZXiのライバルモデルのブリヂストン「241CB」「242CB+」はどうだろうか?
241CBの計測数値。赤字の左右慣性モーメントに注目する。
「ブリヂストンの新作ですが、242CB+は他社のプロ向けモデルと同等の性能を持っています。ZXi7と同じくどこも突出していないバランスのよさで、多くの人が使えるフレンドリーなアスリートアイアンと言えるでしょう。かたや241CBは同社がずっと作り続けてきた不変のツアーモデルの系譜上。慣性モーメントが小さく、ミスヒットに対する寛容性はほとんど考えられていません。しかしヘッドの返りやすさにつながる重心距離が短く、積極的にフェースをターンさせて打っていく選手が手に取るはずです」
冒頭で触れたが、重心距離を見ると“イマ風”かどうかがおおよそ分かると松吉氏は念押しする。
「語られてきたことではありますが、大多数のプロがマッスルバックアイアンを使っていた時代のアイアンは、接着技術が今ほど発達していなかったためシャフトとヘッドの接着面を大きく取るためにネックがかなり長く作られていました」
今から35年以上前のダンロップ製アイアン「PRO MODEL DP-201」(左・1988年)と「PRO MODEL DP-301」(右・1989年)のカタログ画像。現在のアイアンと比してネックやソケットが長く、フェース面上重心点(イメージ)は現代のアイアンよりもヒール寄り高め。
「これをどう使うかがプロの技でした。しっかりミートして飛ばしたり、意図的に重心点を外してスライスやフックを打ったりしてボールをコントロールしていたんです。現在とは異なる高等技術です」
弾道計測器の発達がアイアン設計にも影響する
当時のプロは研ぎ澄まされた感覚と経験値によってアイアンの球筋を作っていた。しかし現在は事情が異なるという。
「ご存じのように、今は弾道測定器が発達して普及し、効率の良いスイングメソッドが世界的にある程度共通化されてきました。クラブの軌道とフェース向きで弾道をコントロールする技術で、これが最も効率的で再現性も高いことが分かってきました。そしてそのスイングをするには重心距離の長い、スイング中にフェースの向きが変わりにくいクラブが是とされてきているんです。つまり、重心距離が長めのモデルが今どきということです」
外ブラ勢の進化はすごい
今どきクラブの先頭を突っ走るのは、やはり外ブラ勢。なかでもピンは一貫して重心距離の長いクラブを作り続けてきた。
「かつては『ピンに染まったらピン以外は使えない』といった感じでしたが、今は時代がピンに追い付いてきた感じがします。大慣性モーメントでミスに強く、重心が遠くにあるためヘッドがブレにくい。こういうクラブをうまく使うと効率的な球が打てることが分かってきたので、ピンのシェアが増えてきたのだと思います」。
ピンのツアー系キャビティアイアンを見てみよう。
i230は鍛造アイアンではないが、現時点において見逃せない性能を有するために登場させた。
「i230とBLUEPRINT S、両モデルともに重心距離が長く、慣性モーメントが大きいのが特徴です。これは同社のドライバーと全く同じ設計思想に基づくもので、i230は特に大きく、スイング中にフェース面が変わりにくい。スイング的に過去の人を全て切り捨てているとも言えますが、弾道の安定を目指したやさしいプロモデルです。対してBLUEPRINT Sは、現代スイングの人も何とか使える“MB系”重心距離のツアーモデル。ヘッドはコンパクトですがフェース向きを安定させる慣性モーメントを持っています。性能的にはブリヂストンの242CB+に近く、これからピンのクラブを使い始めようとする人にも良いのではないでしょうか」
次回は今どきアイアンを作るアメリカ勢、タイトリストを中心に研究していく。(取材・構成/中島俊介)
写真:小林司(クラブ)