「Qi35」ドライバーを一斉計測 "コア"はけっこうやさしい/外ブラ1W研究
テーラーメイド、キャロウェイ、ピン、コブラ、タイトリスト、5メーカーの最新ドライバーを一斉研究。ヘッド計測をクラブ設計家でジューシーを主宰する松吉宗之氏に、試打を野仲茂プロに依頼した。今回はテーラーメイド「Qi35」シリーズ3モデルを計測!
数字の詳しい説明は下記の記事を参照
“25年外ブラドライバー一斉計測”して分かった!依然「重心深度>重心距離」傾向が強め/外ブラ1W研究#1
本特集では「重心深度」と「重心距離」の関係に注目。「2つの数字が近い(差が1~1.5mm程度)と、ヘッドから感じるヘッドの印象が普通、深度のほうが大きいと、やさしい、つかまってくれる。逆に深度のほうが浅いと、つかまらない、すべる、ちょっと難しい…という印象になると思います。大前提として、それぞれの数値の大小が顕著であれば、この数字を重視して性能を判断します」(松吉氏、以下同)
そこで、普通を黄色、つかまるクラブを青色、つかまらないクラブを赤色で示した。
コアモデルは2つの重心位置で計測
「“コアモデル”Qi35の数値を見ていきます。本モデルには付け替え可能なウエートポートが2つ備わっていて、まずは後ろが重い状態からいきましょう。重心距離は41mmで平均くらいですが重心深度が43.8mmと大きいのが特徴です。重心角28.4度は大きく、つまり“やさしく左に行く”クラブと言えます。左右MOIも5,000を超えていて十分大きく、打点のバラつきに効果を発揮します。勝手につかまってくれるので、一般の人がやさしく打てる、また、仮に正しいスイングでなくても真っすぐいくことを念頭に設計されたモデルです」
「ウエートを入れ替えると、重心深度と重心距離の数字が近付いて、真っすぐ行くバランスが取れています。重心角が25.4度で、やさしい深重心のポジションよりもつかまりが抑制されています。つまり、コアモデルは浅くしたところが真っすぐ行くバランスが取れているんですね。上手な人やフェースを真っすぐインパクトできる人には使いやすいクラブです。このウエート入れ替えによる性能変化はすごく理にかなっていると思います。浅くしたら難しくなるのではなく、浅くしたら真っすぐで、深くしたら左に行く。多くのプレーヤーに対応しており、製品としてよくできているなあと驚いています」
LSは浅重心のコアに近い
プロや上級者が好むLSはどうだろうか?
「LS(ウエートは出荷時の位置、前3g&3g、後13g)は、浅くしたコアと同じような重心バランスです。見比べてみてほしいのですが、LSも真っすぐ行くバランスが取れており、それでいてできるだけスピンを減らしたい設計です。MOIがそんなに大きくないのがLSのポイント。左右MOIが小さいということは上下のMOIも小さい。これにより、重心の上で打つとギア効果がはたらいて低スピンになりやすいわけです」
MAXは結果を重視する人向け
最後に、MAX。メーカーは、ミスヒットに強く、さらに真っすぐ飛ばせるとうたう。
「前作からの“10K路線”を継承したモデルで、MOIが極力大きいモデルという立ち位置です。重心深度がかなり深く、それにともなって重心角も31.3度とかなり大きい、つまり誰が打ってもやさしい、つかまる性能が与えられています。この重心アングルに対して重心距離43mmは短すぎますね。上手な人がコントロールすれば真っすぐも行くし、ややもすると左へも行きます。とにかく、右に行くのを何とかしたい人にはぴったりで、スイングの理想はともかく、打球の結果を重視するにはいいところを押さえた数値がそろっていると思います。テーラーメイドは、モデルごとに重心深度をしっかり変えて差を付けているのが特徴です。重心距離は大きくは変わりません。ヘッドコントロールはそれなりにできて、深さの違いで特性を変えるのが、Qi35に連なる同社のドライバー作りと言えるでしょう」
プロと同じテーラーのドライバーを使いたい!
最後に、松吉氏は近年のテーラーメイドの特徴を総括した。
「『プロに憧れて買って、使えた!』がテーラーメイドのドライバーの魅力であり、メーカー、ユーザー共に望むストーリーです。だから、一般の人が打てる性能でないといけない。近年の『SIM』『SIM2』と『ステルス』『ステルス2』を見ると、初代はほぼプロ用、翌年の2でアマチュアフレンドリーになる、を繰り返してきました。ステルスはヘッドスピードの速い人が飛ばせる性能に特化していたため、モデル選びやロフト選びがアマチュアが支持するものとちょっと離れてしまい、難しいイメージが付きすぎてしまいました。ステルス2はかなりやさしくなりましたが、『ステルスブランドは難しい』というイメージを覆せなかった。この轍を踏まないようQi10は誰でも使える性能で登場し、Qi35はそのベクトル上にいる。シリーズの中で、飛ばしたい人向け、つかまってくれるクラブが欲しい向け、と性能を分けて展開しているのです」(取材・構成/中島俊介)

松吉宗之(まつよし むねゆき) プロフィール
ジューシー株式会社の代表取締役。ゴルフクラブメーカーにて、クラブの設計開発に20年以上携わる。2018年にジューシー株式会社を設立。自社製品だけでなく、OEMでの設計も行う。3D CADを用いたデジタル設計をいち早く導入し、数値に裏付けられた革新的な性能のクラブを多数開発。その傍ら、膨大な数のクラブヘッドを自身で測定し、ゴルフクラブの性能や製法の進化を独自に研究し続けている。