上田桃子の強さの秘密―― シビアなまでにこだわる「打点」と「距離感」
勝負師ならではの思い出のホール
そんな上田には米ツアーに参戦して間もなくプレーした思い出のホールがあるという。「大会名やコースの名前はすぐ忘れちゃうんで、覚えていないんですけど……、景色ははっきり覚えています。ホットドッグを売るバスが出ていたなとか(笑)。18番ホールで右サイドはずっと池。5番アイアンで打った2打目がピンそばについた時、すごい歓声が上がって『米ツアーに来たんだな』ってすごく感じました」
よく似たシチュエーションのホールとして挙げたのは2022年まで海外メジャー「クラフトナビスコ選手権」(現シェブロン選手権)が行われていたミッションヒルズCCの18番。こちらは左サイドに池が広がり、グリーンは浮き島のパー5だ。「刻んで3打目勝負でも難しいので、2オンを狙いたくなるホール。いいティショットを打った選手が2オンを狙って池に入れることもあれば、刻んだ選手もピンが手前ならスピンで戻って池に入れることがあります。有利だと思った選手が不利になったり、毎ショット、立場が入れ替わる可能性があるのが面白いところですね」
国内では地元・熊本のトーナメントコース、熊本空港CCの18番パー5が同じような特徴を持っている。「砲台グリーンで手前に池があって、グリーンが止まりづらいので、刻んでも奥に行ってバーディが取りにくい。飛ぶ人は2オンを狙いたくなります。そういうことは十分分かったうえで、私も何回も池に入れているホールです」。2オンを狙った選手と刻んだ選手の立場が入れ替わるというのは優勝争いを想定してのこと。印象に残るホールとして挙げるのがすべて18番なのは勝負師ならではだろう。
3~4ヤードの違いをレーザー距離計で払拭
こうしたホールを攻めるうえで大事になってくるのが距離感だ。「ピンを狙うショットだけでなく、ティショットでバンカーを越えるには何ヤード必要か、そこから何ヤードでラフに突き抜けてしまうのか、パッティングを含めてゴルフというゲームに距離感は絶対に必要です。日本の女子ツアーでは昨季から距離計測器が使えるようになって、より正確な情報を知ったうえでプレーできるようになりました。これは大きな変化だと感じています」
上田はラウンド中の距離計測は原則、キャディに任せており、従来のヤーデージブックと歩測による計測と、レーザー距離計による計測を両方行っている。「心配性なのでダブルチェックです。3~4ヤード違うだけで『えっ』ってなることもあるのですが、そんな時はレーザー距離計を信じます」。ツアープロにとって3~4ヤードは大きな違い。そこに池などのハザードが絡めばなおさらだ。
上田は契約先となるニコンの最新モデルのレーザー距離計を使用している。現在使っている「COOLSHOT PRO II STABILIZED」は「(今まで使ったレーザー距離計の)4機種目だと思います。レーザー距離計を使うことでプレーが遅くなると使いづらいので、モデルチェンジのたびに(計測の) 反応が早くなっているのが私にとっては大きいです。ピンを計測できたときにグリーンサークルが出て、見やすくなったとも感じています」。過去には契約選手として「お尻のポケットに入れても邪魔にならないようにしてほしい」と薄型化をリクエストしたことが、現在のモデルにも反映されているそうだ。
大切なのは左右のズレより縦のズレ
レーザー距離計を使用するのは試合中だけではない。練習でも以前からフル活用している。「練習ラウンドでは50~100ヤードを数多く練習しているので、そこは正確に距離を測っています。短い距離ほど、1ヤードのズレが大きいですから。あとはグリーン周りのバンカーですね。私の場合、25ヤードぐらいから距離を感じるので、SWじゃ届かないかなと感じるため、練習ラウンドでバンカーからの距離を測って、20ヤード以内のバンカーは入れてもOK、それ以上はダメというように判断しています」。バンカーの中から真っ直ぐ歩測することはできないため、正確な距離を知るためには実はレーザー距離計が不可欠。一般のアマチュアゴルファーはほとんど使ってこなかったシチュエーションではないだろうか。
「アマチュアの皆さんは左右のズレに比べて、縦のズレに対する意識が低いように感じます。グリーンをオーバーしても『いいショット過ぎた』なんて逆に喜んでいませんか? 距離感を養うにはまずリズムを一定にすること。そのうえでレーザー距離計を使って、自分の飛距離を正確に把握することが大事です」。15年以上、トップレベルで戦い続けてきた上田が考えるゴルフ上達の秘訣とレーザー距離計の活用法。これを参考にしない手はないはずだ。