イメージが広がるからこそ楽しい 写真家・宮本卓が語る仕事とゴルフ
技術、クラブ、ウェア……。ゴルフのこだわりは人それぞれ。そこに様々な楽しみ方が存在するからこそ、幅広い層に愛され続けているのだろう。日本シャフトは完全国内生産でスチール、カーボンの両方を扱うこだわりのシャフトメーカー。新たなシャフトを生み出す開発陣から、それを手にするエンドユーザーまで、同社の周りには“こだわりの人”にあふれている。
数々の名場面を収めてきた「マスターズ」の思い出
ゴルフのカメラマンと聞けば、多くの人はトーナメントを思い浮かべるだろう。海外メジャーのような大舞台でスター選手がショットを放てば、ギャラリーの歓声、どよめきと同時に無数のシャッター音が響く。日本を代表するゴルフ写真家・宮本卓(敬称略、以下同)は、トーナメントで数え切れないほどの名場面を切り取ってきた。「マスターズ」には34大会連続で訪れ、2021年に松山英樹が優勝した日本ゴルフ界の歴史的瞬間にも立ち会っている。
なかでも思い出に残るのは、タイガー・ウッズが初優勝を果たした1997年大会だ。「全米アマを3連覇したタイガーが1996年の夏にプロになり、数カ月で最終戦の『ツアー選手権』に出られるような成績を収めて、翌年のマスターズで優勝する。スーパースターがその階段を上っていく瞬間を見届けられたんだから、それは特別な経験。ジャック・ニクラスやアーノルド・パーマーを撮る機会はあっても、そういう瞬間には立ち会えていないという悔しさがあったからね」。その後、宮本はウッズの15回のメジャー制覇をすべて撮影。気付けば、そんなカメラマンは世界中で宮本ひとりだったという。
想像力とイメージを膨らませる
宮本の撮る写真の世界は、トーナメントに限らず、ゴルフ場自体が被写体になっている。2002年に交わしたペブルビーチ・ゴルフリンクスとの契約を皮切りに、リビエラGC、我孫子GC、廣野GC、鳴尾GCなど、国内外の名門コースでオフィシャルフォトグラファーを務めてきた。
「歴史のあるコースには30年来、40年来のメンバーがいる。そういう方たちに『これ〇番だよね。どこから撮るとこんな風に見えるの?』と言われるとうれしくなるよね」。ティイングエリアの右サイドと左サイドに立つのとでは、コースはまるで違って見える。「写真家」の視点で角度を変えながらコースを見ることで、何百回とラウンドしてきたメンバーであっても気がつかない、美しい景色が見えてくることがあるのだ。
もちろん、世界の名門コースにはすでに多くの写真が残されている。撮影前には可能な限りそれらに目を通す。「同じ写真を撮っても仕方がない」。宮本卓らしい写真を残すことが彼のこだわりだからだ。そのために求められるものは想像力と、イメージを膨らませる力だという。
「木々の間を通って、ここにどんな光が差し込んでくるかをイメージしながら撮影場所を決めていく。それでも自然が相手だから、いつも思った通りの光が入ってくるわけではない。その時にはどう撮影をするか? いろんな経験をしてきたからできることだけど、また新たにイメージを膨らませていかないといけない」
朝夕の変化、四季の変化…。コースが見せる様々な表情と宮本のイメージが重なった時、誰も撮影しなかった、誰も見てこなかった風景が切り取られていく。シャッターを押す瞬間は、イメージを形にする瞬間でもある。