「武道精神」から「侍」へ 日本シャフトがPGA SHOWで示した次なるステージ
世界最大級のゴルフ見本市「PGA SHOW」(フロリダ州オーランド)が24日、閉幕した。期間中、テキサス州やフロリダ州など米南部は記録的な寒波に見舞われ、オーランドも気温10度を下回る寒さだった。そんななか、会場のオレンジカウンティ・コンベンションセンターは熱気に満ちていた。そして、日本を代表するシャフトメーカー「日本シャフト」もまた、情熱にあふれていた。目指しているのは「勝利」にこだわる新たなステージだった。
日本の強みを世界に届けたい
営業部主任の東利樹は今回、初めてPGA SHOWに参加した。イベント初日の「DEMO DAY(デモデー)」では来場者に対応し、日本との違いを実感している。
「米国ではシャフトを選ぶ際に、スイングスタイルよりもシャフト重量を基準に選ぶ傾向があると感じました。合理的で分かりやすい半面、やや大まかな選び方をしている印象もあります」
一方、「日本の試打会ではあらゆるスペックを揃え、細かなニーズに応えられる製品ラインアップを提供している」。東はさらに、こう続けた。
「特に日本シャフトは試打会の規模を問わず、すべてのスペックを用意しています。これは日本シャフトの大きな強みです。この違いを活かし、米国の試打文化をさらに充実させる提案ができるのではないかと考えています。まずは日本での成功事例を磨き上げ、それを世界へ展開していきたいですね」
米国市場の特性について理解を深めるとともに、日本の強みを再確認する貴重な機会となったようだ。
寒波で来場者が増えた?
国内でマーケティング・広報を担当する栗原一郎は、2006年から毎年PGA SHOWに来ている。国内メンバーの中では最も参加回数が多い。「例年なら午前中にSHOWを見学し、午後は観光を楽しむ来場者が多い」という。だが、ことしはあいにくの天気で人の動きは変わったようだ。
「フロリダには数多くのテーマパークやアウトレットモールもあり、観光地としての魅力もあります。ことしは記録的な寒波に見舞われたことで、長時間会場に滞在する人が増え、日本シャフトのブースにも多くの来場者が訪れてくれました」
屋外で開催されるDEMO DAYは天気の影響を受けやすい。悪天候の日はどうしても来場者が減る傾向にあるが、ここでも「日本シャフトを試したい」と訪れるゴルファーの姿は多く見られた。
「昨年から取り組んでいるPGAプロ向けのフィッティングセッションでは、事前にアポイントを取った来場者の半数以上が予定どおり訪れてくれました。日本シャフトに対する期待の高さを肌で感じたPGA SHOWでした」
新シリーズの目標は「己の技術」から「勝ちにこだわる」へ
PGA SHOWでは新作『N.S.PRO MODUS3 TOUR 110』を発表した。シリーズの次なる展開について、栗原はこう語る。
「これまでの15年間、MODUS3は“日本的な奥ゆかしさ”を大切にしてきました。ブランドのメインキャラクターには剣道のお面を採用し、日本の武道精神に通じる“勝ち負けにこだわらず、己の技術を磨く”という理念を体現してきました。それは、日本シャフトのモノづくりの姿勢とも一致しています。競争ではなく、ツアープロやアスリートゴルファーが求める性能を追求し、より良いシャフトを届けることに注力してきた15年でした」
今やMODUS3はプロや一般ゴルファーの間で広く浸透。国内男女ツアーでの使用率も高く、男子の勝率は50%を超える。“第2章”をどう展開していくか、その答えは「勝ちにこだわる」ことにあるという。
「今後は、“昨日までの日本シャフトに勝つ”という意味と、“試合で勝ちたいと願う選手を支える”という意味の両方を込め、より進化したモノづくりを目指します。製造技術、品質、精度の高さには自信がありますし、他社に負けない製品をつくるという意識を持ち、さらに勝ちにこだわるブランドへと進化させていきます」
16年目となる今年からブランドのモチーフを「剣道のお面」から「侍の甲冑」へと変更したのはその象徴。剣道が己の技を磨く武道であるのに対し、侍は勝つために戦いに挑む存在だ。
「MODUS3はすでにスタンダードなブランドになりつつありますが、世界市場を見渡せば、まだまだ成長の余地があります。特に、最大のマーケットである北米で“スタンダードな存在”になることが目標。当たり前のようにMODUS3を手に取り、ゴルフをする。ゴルファーが“勝ちたい”と思ったとき、真っ先に選ぶシャフトがMODUS3になる。その未来を目指して、さらに進化を続けていきます」
「国内の信頼」と「海外の飛躍」でさらなる成長へ
PGA SHOWを見守った松田真人代表取締役社長に、同社の今後のグローバル展開を含めた目標について聞いてみた。
「国内市場では、今ある認知度とシェアを維持しながら、ブランド力をさらに強化し、ロイヤルカスタマーを増やしたい」。一方、海外市場については、「特に米国市場でのシェア拡大を目指しています。MODUS3シリーズが誕生して15年、これまでの成果を基盤に、シェアを1.5倍から2倍に伸ばすことが目標」
国内と海外のバランスを取りながら、さらなる成長を目指す考えだ。
日本シャフトの社員の話に共通して出てくるのが「国内」、「海外」、そして「次なる成長」というキーワードだ。全員が同じベクトルで、熱意と志を共有しているからこそ、言葉となって生まれてくるのだろう。
昨年、日本シャフトは創業65周年、MODUS3シリーズは15周年を迎えた。刻んできた歴史と成果を礎に、次なるステージを目指す挑戦はこらからも続く。(敬称略)