駐在レップ米ツアー東奔西走

オーガスタ、ベイヒル、リビエラ…「対コース」の道具選び/駐在レップの米ツアー東奔西走Vol.6

2024/04/09 15:41
バレロテキサスオープンにて松山プロと談笑。いよいよ次戦はマスターズだ

プロゴルフツアーの現場で働くメーカーの用具担当者(通称:ツアーレップ)をご存じだろうか? 住友ゴム工業(ダンロップ)の宮野敏一(みやの・としかず)氏は松山英樹畑岡奈紗ブルックス・ケプカら契約選手をサポートするべく、2020年より駐在先の米国で試合会場に足を運んでは、クラブの調整をする。米国を奔走するゴルフギアのプロが現地からとっておきの情報をお届けする。

◇ ◇ ◇

ご存じかと思いますが、PGAツアーは広大な北米大陸を転戦する形で、毎週のように異なったコースで試合が行われます。東と西で気候も大幅に違い、試合の開催場所によって芝質やコースの雰囲気もガラッと変わる。選手は毎週のように変わるコースでいいスコアを出すために、各コースに合う(であろう)クラブを探し、アジャストしていくわけです。今回はそんな「対コース」のクラブ選びの考え方、選手とのやり取りをお話していきたいと思います。

2年ぶりの優勝には「どこか予感めいたものが…」

本題に入る前に、松山プロの2年ぶりの優勝(2月の「ザ・ジェネシス招待」)についてお話ししたいと思います。

今年に入ってからというもの、「ショットもパットも一つひとつの精度がすごく良くなっているな」というのは感じていました。一つひとつがいいから、これがギュッと詰まったらどうなるんだろうなというのは感じていて、そのタイミングが訪れるのが楽しみでもありました。

ザ・ジェネシス招待ではショットもパットもかみ合っていた

特にグリーン上のパフォーマンスは見違えるものがありました。昨年のパッティングと比べると、転がっているボールの質が明らかに違いました。ショットは飛んでいるボールなのでその変化が分かりやすいですが、パッティングの転がるボールはどれも同じに見えやすく、一見その進化が分かりづらいもの。でも、毎日近くで見ているからこそ分かることがあり、“ナイスパット”は確実に増えていた気がします。

松山プロは完璧を求める人なので、ショットに関しても満足はしていないでしょうけど、でも昨年よりは確実に良くなっていました。ミスをしてラフに入れてボギーということもありますが、ミスのし方などが今までと違った。黒宮(幹仁)コーチとやっているスイングの取り組みがうまくいっていて、彼から刺激をもらいながらゴルフが変わっている段階なんだろうなと感じます。体の状態も良くなって、トレーニングもできているので練習量も増えている。球数をしっかりと打てていたことも、大きかったと思います。

クラブスピード(ヘッドスピード)もボールスピードもバラつきがなくなり、安定して一定以上のスピードが出せるようになっている気がします。ドライバーのスピード感など最高値がそこまで速くなったかというと、そうじゃないかもしれませんが、一つ言えるのは「下の数値がそんなに出なくなった」ということ。なんとなく2023年の後半ぐらいから変わり始めていたのが、ようやくいま実を結んだ形になりました。

チーム松山で優勝を祝う。一番左が宮野氏

ひとまず、チームのみんなでホッと一息。もちろん松山プロのことですから、勝ったとしてもこれで満足せず、クラブ探しの旅はこれでまたイチからスタートです。優勝した次の試合で、松山プロからクラブのリクエストが入ったので、どこか安心しちゃう自分がいました(笑)。

クラブの準備は「年が明けてから」よりむしろ「年明け前から」

さて、ここから本題です。我々ツアーレップの仕事は、「対選手」という側面が強く見えますが、実際その背景には選手の戦う場である「コース」という存在が大きいんです。もちろん新しいクラブが出れば、その都度選手に試してもらいますが、そうした新製品の試打と同等かそれ以上に重要なのが、コース攻略用の「クラブの準備」です。分かりやすい例えでいえば、「コースが長いから飛ばせるクラブを入れる」、「地面が固いのでウェッジのバウンスを少なくする」、「グリーンの目が強いので、転がりのいいパターを用意する」などといったことも、コースありきのクラブ調整です。

「マスターズ=オーガスタGC」のように毎年同じコースで行われる大会は、我々も腕の見せどころ。毎年のようにラウンドしていますから、選手もレップもコースをイメージしやすい。選手からの注文も細かく入りますし、我々からもコース対策に向けた提案をいろいろとしていきます。

ツアーレップのロフト、ライ角調整は日常業務

松山プロが出場する試合は年間を通してだいたい決まっていて、同じようなコースでラウンドすることが多い。年明けからハワイ2連戦、米本土に移って「ファーマーズインシュランスオープン」を皮切りに西海岸を転戦。その後、「アーノルド・パーマー招待」からフロリダシリーズが始まり、テキサスの試合を挟んで4月のマスターズを迎えるのが、例年の前半戦の大きな流れです。

僕もツアー帯同5年目になり、ようやくそのサイクルに慣れてきた感はあります。帯同1、2年目は「アレができていなかったな」と後悔することも多々ありました。今でこそようやく分かってきましたが、やはり「事前の準備」がとても大事。新シーズンが始まるハワイの試合に関しては、年末から準備を始めているほどです。

それではこれから、そのシーズン前半戦の「コースとの戦い」を詳しくお話していきます。

ハワイの2連戦 みな「休みボケ」を解消≫
1 2

■ 宮野敏一氏 プロフィール

宮野敏一(みやのとしかず)。2020年からRoger Clevelanad Golf Company,Inc./駐米プロ担当としてハンティントンビーチに赴任。PGAツアーやLPGAに通い、選手のクラブアッセンブル、フィッティングを行う。レップ仲間からは“PANDA(パンダ)”の愛称で親しまれている。