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打率5割のひみつは「会話」/THE PROFESSIONAL Vol.1 吉岡哲平(シューフィッター)

ゴルフ業界に数多くある仕事の中には普段スポットライトが当たらない専門職もあり、業界を陰で支える人たちがいる。彼らプロフェッショナルたちに光を当てて紹介する企画の第1回は、ゴルフ業界で長年シューフィッターとして活躍するフットジョイの吉岡哲平氏だ。

シューフィッターとは一般社団法人「足と靴と健康協議会」(FHA)が養成・認定する資格で、彼はその中でもゴルフシューズフィッティングの専門家。「シューズは14本のクラブと同じぐらい大事なギア」と考える人ほど吉岡氏のフィッティングを受けたがり、中には指名して買いに来る客もいるほど。そんなカリスマシューフィッター・吉岡氏の日常に迫った。

スイングの特徴を会話の中でそれとなく探る

まずは、吉岡氏が普段どのような仕事をしているのかをのぞいてみよう。取材当日はヴィクトリアゴルフ新宿店でシューズフィッティング販売の様子に密着させてもらった。「シューフィッター」と一口にいっても、吉岡氏の仕事は多岐に及ぶ。この日のように一般ユーザー向けのフィッティングを行って販売するほか、フットジョイのシューズを扱う量販店の販売員へのレクチャーも行う。そして時折ツアー会場を訪れ、ツアープロへのフィッティングも担当するのだ。

「お店にズラっと並んでいるものの中から、的確に自分に合うものを選ぶのは難しいと思うんですよね。ほとんどの方は、ゴルフシューズに対しての知識が深くないので、私はその分からない部分をアドバイスする役目だと思っています。買う、買わないではなく、まずシューズを知ってもらうのが第一にあります。もちろん買っていただければうれしいですけど」と、ズラリと陳列されたシューズの前で思いを語る。

家電量販店にいる、電気メーカーの応援販売員に近いイメージだろうか。もちろん店内にはフットジョイ以外のシューズもあり、その数ある選択肢の中から自社商品を選んでもらうのは至難の業に思える。それでも、吉岡氏の打率は平均5割(10人接客したうちの5人が購入)を超えると聞くから、業界の中でもかなりの“やり手フィッター”なのだ。その柔和な物腰からは想像がつかないが、いったいどんな販売テクニックを駆使しているのだろうか。

吉岡氏の強みのひとつが「会話」だ。客とのやり取りの中で、特にヒアリングを重視する。実際に耳をそば立てて聞いていると、「どのようなゴルフ遍歴なのか」、「どんなシューズを求めに来たのか」、「ゴルフのレベルはどのぐらいなのか」などの情報を、さりげなく引き出している。

シューズ選びは「スイングの動きと密接に絡みます」と吉岡氏は考える。「最近は携帯で自分のスイング動画を撮っている方も多いので、会話の流れでスイングの話が出てきたら、(動画を)見せてもらうお願いをします。この感じのスイングをしたいなら、こっちのモデルもいいんじゃないですか? という勧め方もしますね」

「フィジカルが強めでスイングの安定しないお客さんであれば、しっかりしたシューズを。球に当てたい気持ちが強くて手打ちになっている方には、フットワークを促すモビリティのあるモデルをおススメしています」と、仕入れた情報から客に合うシューズを絞っていく。

ときにスポーツ歴などもさりげなく会話に織り交ぜる。「全員がスポーツをやっていたわけじゃないと思いますが、結構スポーツ遍歴がサイズ選びに影響するんです。例えばバッシュ好きな方は、ゆったり履けるモデルを好みます。陸上のトラック系やサッカー、野球をしていた人は動かないスパイクに慣れているので、ジャストフィットを好む傾向があります」と、まさに客へ“取材”している感覚に近いだろうか。

「硬さ」にゴルフのうまい下手は関係ない

聞き取り調査をひと通り終えると、普段履いているサイズの傾向を聞き、実際に足のサイズを計測。バックヤードに入りシューズをチョイスする。大まかにモデルとサイズの目ぼしをつけ、「2、3候補をピックアップします」と次のステップへと進む。店内には同社のシューズで15種類近いモデルがあるというから、事前の会話のやり取りでだいぶ絞られたわけだ。

「それでもその2、3足で決まるわけではなく、ここからお客さんのフィット感を確かめていきます。人によって『フィット』の感覚は違うため、例えば同じ27cmでもモデルによってフィットする、しないというケースは沢山あります。15種類もモデルがあると迷うかもしれませんが、私からすれば種類が多いからこそ、ここからもっと詰めていける。試し履きしてみて、『もっと甲のあたりがしっかり感じられるものがいい』、『足首が締まっていたほうがいい』などの要望を聞いて、また別のモデルを提案していくんです」

フィット感を探る上での大事なチェック項目が「硬さ」だ。がっちりとした硬いものが好きなのか、柔らかいものが好きなのか、履いた心地を見て客の好みを探っていく。「硬さに関しては、ゴルフのうまい下手は関係なく、その人のスイングやフィジカルの傾向によって選ぶべき」と吉岡氏は考える。初心者はスニーカーのような柔らかい靴を選びがちだが、その勝手な決めつけが良くないという。

「例えばその方があまり上手でなくても、フィジカルの強い方でクラブを振り回しやすいのであれば、必要なのはたぶん安定感だと思うんです。そうなると、フニャフニャ寄りの靴を履くとスイング中にブレやすく、スイングパフォーマンスを明らかに下げてしまいます」と、技術レベルとシューズの硬さは比例しないようだ。

吉岡氏の「硬さ」の判断基準には、普段フィッティングしているツアープロとのやり取りが大きく反映されている。「プロの方は自分のスイングをよくご存じなので、シューズに対する硬さのこだわりが細かい。例えば武藤俊憲プロには『DRYJOYS プレミア』を履いてもらっていますが、これは硬めのモデル。『すごくしっかりとした、足が動かないようなものがいい』と希望されるので、ある程度シューズで下を固められるようなモデルを選んでもらっています」

長らくツアープロのフィッティングを行うことで、その硬さの傾向をつかめている。「プロはグニャグニャしたものなどスニーカー寄りのものはあまり好みません。幡地隆寛プロや小鯛竜也プロもよくフィッティングでお話をしますが、皆さん根底には、『足元は硬めでしっかりしていてほしい』という考えがあります」と吉岡氏。

実際にトーナメント現場で、「ハイパーフレックス」というモデルを履く小鯛に話を聞く機会があった。「今回のシューズは大ヒットでした。動きやすさもあるけど、インソールから下のカーブの硬さもしっかりある。他社さんのモデルだとミッドソールもアウトソールも全部柔らかくしちゃうのもあって、そうなると全部がグニャグニャで…。履いた瞬間は疲れにくいのかもしれないですけど、それじゃゴルフにならないんですよね」。ツアープロの硬さへのこだわりは、細部にまで及んでいるのだ。

「重い」「軽い」はどちらも正解

サイズ感と硬さも決まることで好みのシューズは絞られてくるが、もうひとつ気になることがある。それは「重さ」だ。重い方がいいのか、軽い方がいいのか意見は分かれるところだが、プロのシューフィッターはどのように考えているのだろうか?

「これは永遠のテーマだと思うんですけど、正直結論はないんですよね」と言い、吉岡氏はひとつのシューズを手に取った。「これはウチの中で比較的重い部類の『プレミアシリーズ』で400gちょっとあるんです。最近は200g台のシューズもありますから、ゴルフシューズの中でも重い部類に入ると思いますが、これを軽いと感じる人もいます。幡地隆寛プロも実際に『軽い』と気に入って履いている一人。数字上で400gと250gは全然違いますが、その人の体重だったり、背格好によっては、400g以上を履いても軽いものと変わらない人はいるんです。プロはみな口々に軽いのがいいと言いますが、その割には実際に履いているモデルは数字上、重いケースが多いんですよ」

まるで、クラブのスイングウエイトのような話に聞こえてくる。自分のクラブの振り心地は分かるけれど、バランスの数値をちゃんと覚えている人は少ないのと同じような感覚ではないか。「実際、靴の重量はそんなに神経質にならなくてもいいんじゃないかなと思います。 ただし、たまに軽すぎる人がいるので、そういう方にはある程度重量のあるものをお勧めしています」

心に響いた藤田寛之の言葉

吉岡氏と客とのやり取りを見ていると、シューズに関してもいかにフィッティングが大事であるのか伝わってくる。そして、プロもアマチュアも分け隔てなく、同じように対応しているのが印象的だった。吉岡氏にそう向けると、あるプロゴルファーとのエピソードを話し始めた。

「昔ジャパンゴルフェアで藤田寛之プロが、タイトリストの『プロV1』のトークショーで話していた言葉で、すごくなるほど! と思ったんです。『ゴルフボールはうまい下手で選ぶんじゃない。しっかり狙ったところにスピンがかかるという性能は誰しもが享受できるものだから、うまい人が使うものと決めつけて買わないのは良くない』と言っていたんです。これはシューズも一緒なんですよね。硬くてしっかりしているからうまい人しか使わないというのは、選ばない理由にはならない。自分に合ったいいシューズというのは、プロもアマチュアの方もそこに差はないんです」と吉岡氏は熱く語る。

アマにもプロにもまさに100%の力で対応する吉岡氏のフィッティング。カリスマと言われるその技術の妙を、今回の取材で垣間見た。(構成・編集/服部謙二郎)

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