あれもこれもDIYする開業52年のゴルフ場 こだわる理由が温かい ~品野台CC
名古屋市中心部から車で北東へ約1時間。東海環状自動車道(せと品野IC)を降りて5分のロケーションにある「品野台カントリークラブ」(愛知県瀬戸市、18H、6878yd)は、1969年に開場した歴史あるゴルフ場だ。訪れたゴルファーはきっと、そこはかとない温もりを感じ、穏やかな気持ちでプレーを楽しむことができるだろう。施設内に、従業員のDIYによる案内板やごみ箱などのアイテムが多数点在するためだ。なぜ? 取材すると、決して趣味的でもコスパ至上主義的でもない、プライスレスな伝統があった。
品野台CCで働くこと40年、2019年からは代表取締役社長を務める須崎英晴さん(66)にクラブハウスのレストランで話を聞いた。感染症拡大予防のため今では当たり前になった卓上アクリル板越しのインタビュー。冒頭、須崎さんが「これも試行錯誤を重ねた3代目です」と透明アクリル板を指差して語りだした。新型コロナウイルス対応でスピード感が求められた当初は、同じ手作りでもビニール素材でサイズの大小の模索が続いたが、「“黙食”をお願いしていたので、顔ぐらいはしっかり見えた方がいいだろう」と現在の形へと至ったのだという。
これまでにDIYしてきたもの
須崎さんの記憶をたどると、品野台CCのDIYは、1993年にクラブハウスの一部で発生した雨漏りがきっかけで始まった。2階テラスの屋上防水に問題があったことが原因で、テラス一面に防水シートを貼って対策したが、ゴルフスパイクを履いた来場客(当時は金属鋲も多かった)がシート上を歩いてしまうと再び破れる恐れがあった。ロープを張るのは美観を損ねる。自分たちで玉砂利やレンガを敷き、植木鉢を並べて、立ち入り難いほどの完成度の屋上庭園を造った。この成功体験がDIY道のスタートだという。
その後、高齢ゴルファーのコース内転倒事故を受け、カート道からフェアウェイに降りる傾斜地に階段を作った。コース内の特に高低差がある場所に、いずれも従業員の手作りでコツコツと階段を設置していき、その数は結局14カ所に至った。立派な工事を発注していたら、おそらくこの数にはならない。プレーヤーに笑顔で帰ってもらうために、コースとして年月をかけてしっかり取り組んだ来場客の安全確保施策だ。もちろんその間も、ティイングエリアに設置していたごみ箱や灰皿など、DIYでリニューアルしていくコース内の備品は増え続けた。
プレースタイルの変化によるDIYの加速
開場以来キャディ付きプランのみで営業していた品野台CCが、セルフプレーも選択できるようになったのは2004年。以降、「セルフのプレーヤーにも正しい情報を提供できるように」と、コース内にガイド看板をDIYで作るようになった。中でも12番と16番(いずれもパー3)に設置されている、マグネットでピンポジションを伝える大型ボードは自慢の力作だ。今では8割以上を占めるセルフプレー客の円滑な進行を助けているが、上出来すぎて、ひょっとするとコースの従業員がDIYしたガイド看板とは思われていないかもしれない。
クラブハウス前にずらりと並ぶ、歴代クラブチャンピオンのプレートも壮観だ。以前は植樹をし、幹にプレートを貼り付けていたが、回を重ねるとともに植樹スペースの確保が難しくなり、目に留める人も少なくなっていた。そのため、プレーヤーの誰もが通るマスター室前に手作りのプレートを並べ、「栄誉を称える演出」をしている。「このクラブに52年の歴史があって、毎年チャンピオンが誕生してきたんだなと実感できるでしょう?」。すっきりと見通せるレストランの透明アクリル板越しに、須崎さんはほほ笑んで少し胸を張った。
課題をDIYの「モノ」で解消するには工夫が欠かせない。だから「コト」の本質を自らしっかり考える。「コト」とは、ゴルファーがゴルフ場で体験すること以外はあり得ない。コース従業員に定着したそんなレガシーを、須崎さんは誇らしそうに話していた。
DIYはスタッフ全員が参加
実際、DIYは各業務の空いた時間を使って全従業員で取り組んでいる。担当部署や特定の誰かの作業にしないことで「それぞれがコースに対する愛着が湧くようになる」と須崎さんは言う。どこにどんな感じのモノを作るのか?というお題はもちろん明確にしているが、「やりがいを持ってもらうため」に個々のデザイン性は尊重し、オリジナリティを発揮する余地を残すところがミソ。「思わぬ効果が出ることがあるし、多少上手くいかなくても色や形に統一感があれば問題はない」のだ。
さらに「強制すると一般業務にも支障が出る」という理由で、期日を決めないことをルールにしている。あくまでも「何日かかってもいいので、空いた時間を使って完成させてください」という“ゆるいスタンス”だ。みんなで作業の進捗を共有しながら、力を合わせて作り上げていくことで協調性も生まれる効果がある。
須崎さんは「幸い、工作が好きで器用な人が多かったことは大きかった。そうでない人も徐々に慣れていって完成度は年々高くなっていった」とDIYが定着していった経緯を振り返る。今ではほとんどの従業員が、チェーンソーや電動丸ノコを扱えるという。クラブハウスや茶屋の屋根、雨どいの掃除も自分たちで行い、駐車場の鉄骨が錆びればすぐにペンキを塗り直すことも常態化してきた。
自分たちが手塩にかけたコースだから、従業員のアンテナ感度はおのずと高まる。常連客とのすれ違いざまに何気なく「さらっと言われた言葉」でも、「あそこでつまずいた」という声があればすぐに石を取り除きに行き、「あそこで滑った」という声が聞こえれば、すぐに滑り止めのマットを貼りに行く。「人まかせにすると1カ月、2カ月もかかってしまう。自分たちでやる癖がついていれば、その日の夕方に取りかかれる」。そして、「もう直してくれたの?ありがとう」といった常連の言葉に大きな達成感を得ることができる。
DIYはそんな好循環をドライブしていく象徴的な取り組みだ。材料は近所のホームセンターで仕入れ、以前はマイクロバス運転手の控室だった小屋を“制作アトリエ”にして次々に作品を生み出している。取材した2021年11月初めにも、DIY制作がちょうど大詰めを迎えている作品があった。「企業秘密だけど」と営業課長の末木孝典さん(56)が笑いながら教えてくれたのは、日没直後にコースを照らす「照明車(カート)」だった。
新作は材料費10万円の照明車
毎年12月から2月は日没が早いため、天候が悪いと午後4時過ぎには薄暗くなる。最終組から数えて2~3組が、日没間近でのホールアウトとなり、年に2~3組はホールアウトできないこともあるという。もちろん、日没でプレーができなくなる可能性を了承した上でスタートしているので、来場客が文句を言うことはない。それでも、最後の1~2組が回り切れないことにより、コンペが成立しなかったことを何度か目の当たりにするうちに「最後までやらせてあげたい」という思いが募ったのだという。
業者で見積もりを取ると、照明車の導入は1台160万円以上になった。年に2~3組のための施策であれば、着手が見送られそうなコスト感だろう。だが、ゴルフ場内巡回用のマーシャルカーに大型のLEDライトを取り付けるDIYとすることで、結果的に材料費10万円で仕上げた。何度もテストした結果、LEDライトの取り付け位置を地面から2m40㎝としたことがこだわりだ。末木さんは「お客さんが喜んでもらえることをやる。それは基本的なことじゃないですかね」とさらりと話した。
コストを言い訳にしないことには覚悟が必要だ。施設内に点在する“作品群”は、既製品と比べると当然ながら作りが荒い部分もある。取材中、看板に顔を近づけ「よく見ると手作りだということが分かりますね」と少し意地悪なことを言ってみると、末木さんは「あんまりじっくり見ないで2~3m手前から見てください」と笑って返してくれた。出来栄えは「モノ」の価値の一部でしかないと知っている、接客の「コト」の人の顔だった。(愛知県瀬戸市/柴田雄平)
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