リディア・コーも西郷真央も同門 米女子ツアーの売れっ子パターコーチが教える「3つの大事」とは
◇米国女子◇ヒルトン・グランドバケーションズ トーナメント・オブ・チャンピオンズ ◇レイクノナG&CC (フロリダ州)◇6624yd(パー72)
米国女子ツアー開幕戦を取材していて気になった話題をひとつお届けしたい。
試合が始まる3日前の月曜日から、グリーン上で忙しくしている人がいた。アジア系の顔立ちでタイトリストの帽子をかぶったコーチ、クリス・チョー氏だ。観察していると、彼のスケジュールに合わせて選手たちが時間を決めてやってきているように見えた。例えばリディア・コー(ニュージーランド)が約2時間のセッションを行い、次にユ・ヘラン(韓国)が現れてセッションを行う。その後には西郷真央も教わっていた。まさに選手から引っ張りだこのパッティングコーチ。彼はいったい何者で、どんなことを教えているのだろうか。
忙しく行われるセッションの合間を縫って声をかけてみると、「なんでも聞いてくれよ」と人懐っこい笑顔を見せてくれた。「トーナメント週はだいたいレギュラーメンバー5人を教えていて、それ以外では地元ラスベガスに来てもらって教えたりしている」という。名前を挙げてもらうと、リディア・コー、ユ・ヘラン、ジェニー・シン(韓国)、チェ・ヘジン(韓国)、ギャビー・ロペス(メキシコ)、西郷など。男子ではチャン・キムなども教えているという。
彼の師匠はザンダー・シャウフェレらを指導する、デレク・ウエダ氏だ。チョー氏は元々ウエダ氏のもとでプロとして戦っていたが、その後コーチの道へ進んだという。彼のコーチングの特徴は「唯一の正しいやり方はない」という考えで、選手ごとに教え方を変える点にある。「選手のスタイルを尊重して、それを手助けする。リディアとヘランのセットアップは大きく違う。目の位置(高さ)も違うし、立ち方も異なる。どのセットアップが一番快適で、ラインを見やすいかは選手自身が見つける必要があるんです。『目はボールの真上』とか『手首の角度が必要』など、すべて同じでなければいけないと考える人は多いが、実際はそうではない」とチョー氏。
「例えばリディアはロングパットとショートパットでグリップを変えます。正解は一つじゃない。選手がグリップや姿勢を変えたいと言えば、まず理由を聞いてよく話し合います。そして必ずこう言います、『OK。テストしてみよう』と」
テストする際に必ず行うのが「カメラで撮ること」だと言い、片手に持っていたアイパッドを見せた。「私はいつもカメラを使って教えます。今回もヘランが新しいグリップに変えたので、ストロークもたくさん記録しました。純粋に証拠が必要なんです。推測じゃなくて、証拠。選手もコーチも『こうだと思う』『良いと思う』など、推測でやるケースが多いですが、私は目に見えた証拠をもとに話し合います。録画して確認して、それで良ければそのやり方を採用します」
選手とは毎週のようにチェックを行い、グリーン上で起きているズレを修正しているという。例えば、この週のコーとのやり取りは非常にシンプルだった。「レイクノナのグリーンに対して読みは合っているか?スタートライン(出球の方向)は良いか?それが基本で、そのあとスピード(タッチ)を見ます。毎週グリーンの芝が変わりますから、それらはチェックする必要があります。でも、ストロークに関してはあまりやりません」とチョー氏。確かに二人のセッションを見ていると、鏡を置いてアライメントをチェックしたり、ティを差して出球をチェックしたりしており、打ち方を細かくいじっているようには見えなかった。
最も大事なのは「出球の方向、読み、スピード」
とはいっても、ストロークを練習する必要はないのだろうか?その質問をチョー氏にぶつけると、「グッドクエスチョン」と言って3本の指を立てた。
「パットを決める際に重要な3要素があります」と指を折って話し始めた。「それは、スタートライン(出球)、読み、スピード(タッチ)の3つです。ハンマーでパッティングしたとしても、この3要素がハマればパットは入ります。新しいセッションがある場合、その3つをチェックします。ストロークをいじるときは、『打ち方を変えるとこの3要素にどう影響するか』で考えます。パッティングは結局その3つに帰着するんです」
アジアの選手はこの3つのうち特に「読み」がウィークポイントだとチョー氏は指摘する。「日本や韓国の多くの女子選手は、練習用のグリーンがない環境で育っていて、グリーンリーディングを練習したことがない選手がほとんどです。ストロークは美しいけれど、読みが非常に悪い。狙いと読みが大きくずれることもあり、逆傾斜と読んでしまうことすらあります」
教え子の中でも、コーのライン読みがずば抜けている。「彼女のグリーンリーディングは今まで見た中で最高のものです。ダブルブレイクのパットでもとても上手。足の感覚が素晴らしく、目や足の感覚と本能が結びついている。目だけで見ようとするととても難しいですからね。リディアは天性のグリーンリーダーだと思います」
チョー氏は最後にグリーンリーディングの訓練方法を教えてくれた。「例えば約2mのパットがあるとします。私は選手にティを渡し、ボールが右に行くか左に行くか、ターゲット地点にティを差してもらいます。選手は『自分の読みはここだ』と言ってティを差し、読みどおりに打たせます。その状態でボールがカップの高い位置に行くか、低い位置に行くか、もしくはカップに入るかを見ます。スタートラインが合っていれば、ボールは『読み通り』に転がります。これがフィードバックであり、証拠です。10~15回ほど繰り返すと、『読みが深すぎる』か『浅すぎる』かが分かってきます」
「多くの選手はこうしたフィードバックを得る練習をしていません。ただキャディと一緒に練習して、キャディが『いいと思う』とか『左だと思う』とか言っているだけ。彼らは推測でやっているだけで、それでは読みは磨かれません。読みをチェックしてフィードバックを得ながら練習する。これをたくさんやると、大抵のパットが低くミスしていることに気づき、自分の読みが浅いと分かるようになります」
彼の話を聞いていて、チョー氏の師匠であるウエダ氏に聞いたエピソードを思い出した。かつてザンダー・シャウフェレも大学ゴルフ部時代はリーディングが不得意だったが、読みの練習を重ねることで卒業するころには誰よりも上手にリーディングできるようになっていたということ。ストロークの練習以上にグリーンリーディングを鍛えることの重要性を、改めて感じさせられた。(編集部/服部謙二郎)