タイト「Tシリーズ」を計測してびっくり!見た目と真逆の今どき性能/'24鍛キャビ研究#3
2024年下期に登場した人気の鍛造キャビティアイアンを掘り下げる特集の第3回。クラブ設計家でジューシーを主宰する松吉宗之氏に、計13モデルの計測を依頼した。番手はすべて7番で、計測項目は下記の通り。
重心距離/重心深度/重心高さ/ロフト角/重心角/FP(フェースプログレッション)/ヘッド左右慣性モーメント/ヘッド重量
本稿ではまず“今どきアイアン”を作るアメリカ勢、タイトリストに注目する。
計測項目や数字の見方は下記参照。
人気“鍛キャビ”13モデルを計測して分かった!今どきの「重心距離」の正解は?
特集第1回はこちら。
この秋“鍛キャビ豊作”につき…「打感がいい」を考える。「241CB」と「ZXi7」はなぜ人気?
普通に設計したらタイトリストの数値はありえない!
2023年に発売された3代目のTシリーズ。
「『T100』と『T150』ですが、普通に設計したらありえない数値が出てきて驚きました。外側はシンプルですがタングステンを用いた極めて複雑な内部構造を持っており、番手別設計で緻密に作られていることがわかります。鍛造パーツを使って打感に配慮したと言ってはいますが、それよりも重きを置くのが結果につながる打球。両モデルとも慣性モーメントが大きく、フェースのブレが少ないです。それをコンパクトなヘッドで実現しているところがすごい。FP値も大きくストレートネックです。FP値は4mmがストレートネックとグースネックの境目で、5mmを超えるとストレートネックです。これは明らかにPGAツアーからのリクエストを反映したものでしょう」(松吉氏、以下同)
タイトリストと言えば、かつてはツアー仕様の鋭い“軟鉄一枚モノアイアン”がトレードマークだったが…?
「昔は、キャビティアイアンはワイドソールで低重心、グースネックでつかまえる、対してマッスルバックはストレートネックで重心が浅く球が飛ばない、という棲み分けをしていましたが、現在はそうではありません。今回登場するモデルにはFP値の大きいものが多く、見た目のお助け感は皆無。ですが重心はキャビティらしく深いのでスピン量はマッスルバックよりも多く入ります。ここでまた弾道計測器が出てくるのですが、今はグリーンに止めるために落下角度が重視されます。落下角度を稼ぐためにはスピン量を増やして遠くまで飛ばしたい、そうするために深い重心位置とある程度以上のロフト角が必要です。タイトリストのTシリーズはこの点を重視していると窺えます」
ツアーモデルの多くがキャビティになり、マッスルバックが少なくなった理由の一端が垣間見えた。
今どき鍛キャビはまだあるぞ!プロギアが熱い
我々アマチュアも手にできるツアー系鍛造キャビティアイアンはまだまだある。下記はいずれもプロからの評価も高いモデルだ。これらについても松吉氏に解説いただいた。
「性能的には可もなく不可もなく、バランスのよいアイアンです。プロもアマも多くの人にフィットする可能性があり、きれいな形状と軟鉄鍛造が好きな日本人には特に響くのではないでしょうか。計測値を見ると、スリクソンの前作『ZX7 Mk II』に近いような気もします」
「重心距離だけを見るとミズノは長くなったり短くなったりを繰り返しているのですが、本モデルはやや長め。重心もまずまず深く、ミズノらしいルックスの割には使いやすいと思います。『Mizuno Pro』を冠したクラブは、顔は良いけどややとっつきにくいと感じる人もいますが、本モデルは間口が広く使い手をあまり選ばないでしょう。この顔にピンときたら打ってみると、意外といけるはずです」
「近年のヤマハはトレンドを検証する製品作りを行っています。日本のプロの意見を取り入れたであろう本モデルは、重心が高くて慣性モーメントが小さいのが特徴。ややクラシカルな特性に若干ですが飛距離性能を与えた、少し先進的なアイアンだと言えます。ヘッドスピードが速い人も十分使えます」
「タイトリスト同様、シンプルなルックスの内部に複雑な構造を持ち、番手別に設計されている手の込んだモデルです。形状の割には慣性モーメントが小さく、7番だけ見ると大きな進化はしていないのですが、5番アイアンなど長い番手は大きな進化を遂げている可能性があります。PGAツアーにも供給されているだけあって、ある程度のヘッドスピードを持つ人が使うと真価を発揮できるでしょう。お助け感はありませんが、スピン量は十分確保できる設計です」
「プロギアはここ最近、スリクソンと共に現代のドライバーに合ったアイアンを作ってきました。本モデルは重心距離がしっかり長くFP値も大きい、今どき鍛キャビの要素が盛り込まれています。重心の深さは普通で、打点の上下のコントロールにシビアさを残してあり、上級者のスピンコントロールの手助けをしてくれます」
「小顔だけど打てちゃった!」と思うはず
かつてのアイアン作りは、上手い人の声を聞いてそれを具現化しようとしてきたが、その流れがだいぶ変わってきたと松吉氏。試打する時にはスイング中のヘッドの安定を感じながら打つと良いのだそう。
「『顔はちっちゃいけど打てちゃった!』こういう驚きがあるのが今どきアイアンですので、気になるモデルは是非とも打ってみてほしいですね。可能ならば、6~8番の3本を打って距離差がきちんと出ているかもチェックしたいところです」
次回はこれら13本の7番を今野康晴プロが芝の上から比較試打し、実際の性能面を分析する。(取材・構成/中島俊介)