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この秋“鍛キャビ豊作”につき…「打感がいい」を考える。「241CB」と「ZXi7」はなぜ人気?/'24鍛キャビ研究#1

2024年の晩夏から初冬にかけて、アイアン、特に“ツアー系鍛造キャビティ”の注目モデルが次々に登場してきた。ご存じのとおりアイアンの構造は年々複雑化の一途をたどっており、飛距離と寛容性を高めるための複雑な構造を持つモデルの人気が高い。一方でコントロール性能や打感、顔などをアイアン選びの決め手にするプレーヤーが多いのもまた事実。本記事から3回にわたり、最新のツアー系キャビティアイアンをじっくり研究。読み終えるころにあなた好みの1本が見つかれば幸いだ。

スリクソン「ZXi」シリーズは9月からツアーに投入され、男子では稲森佑貴片岡尚之塚田陽亮出水田大二郎らが、女子では小祝さくら青木瀬令奈櫻井心那菅沼菜々らが新アイアンとともにツアーの後半戦を戦った。

スリクソンに先がけ7月に新モデルを投入したブリヂストンの評判も高い。男子では宮里優作長野泰雅宮本勝昌倉本昌弘や、契約外では堀川未来夢らが、JLPGAでは吉田優利渡邉彩香鶴岡果恋らが主に241CBを手にしている。シーズン中の変更は難しいと考える選手も、テストの結果にはおおむね好感触を抱いている模様だ。

もっと軟らかい打感を!ZXi開発の裏側

ツアーでの評判が高いスリクソンZXiシリーズは、出だしからセールスも好調のようだ。精悍な顔つきながらある程度の飛距離性能と寛容性を持たせた「ZXi5」と、プロ好みのヘッドサイズの「ZXi7」の2つが“ツアー系”のど真ん中に位置するモデル。前作「ZX5/7 MkII」はプロもアマも熱い信頼を寄せた完成度の高いアイアンだっただけに、何がどう進化したのかが気になるところ。じっくり研究するにあたりまずは単刀直入に、開発に携わった住友ゴム工業商品開発部課長代理の島原佑樹氏に話を聞いた。

「このシリーズは代々プロからのフィードバックを色濃く反映しながら開発しているのですが、『ZXi』を作るにあたり、前作に対する大きな改善要望はありませんでした。特に『7』に関する改善要望はほぼなかったんです。そこで今回アップデートのテーマに選んだのが“打感”でした」

アイアンの打感にはヘッド形状が及ぼす影響が最も大きいという見方もあるが、スリクソンが選んだのは非常に軟らかい鉄材「S15C」を使うことだった。

「軟らかい素材は打感がいいというのは分かっていましたので、『ZX7 MkII』の開発時に同じ金型を使ってS15Cで試作品を作っていました。心地よさは明らかに試作品のほうが上回っていましたね。しかし自社の品質基準を満たせなかったので採用は見送らざるを得ませんでした。耐久性に乏しく、使っているうちにライ角やロフト角が変わる恐れがあったんです」

それを克服したのが「コンデンス鍛造」という新技術。S15C製のアイアンヘッドに耐久性を持たせ、“軟らかい打感の市販化”に成功した。

「打感がソフトだと、球を操るイメージが湧きやすいと選手は言うんです。この手のアイアンを好む選手の多くは多少なりともボールを曲げながらコースを攻略しており、曲げ幅が選手によって異なるのだと我々開発側は認識しています。また、打感が軟らかくなると飛ばなくなるのではないかと心配した女子選手がいましたが、計測器の数値を見て問題ないと得心したようです」

極めて繊細なフィーリングを有するプロ選手たちであるが、ZXiシリーズが打感を重視したのは、近年流行しているコンボセッティングの影響も無視できないのだという。

「打感には手に伝わる感触のほか、打音も大きく影響します。材料が変われば音の伝播の速度が異なるため打感も変わります。感触もそうですが、打感に敏感な選手は耳がいいケースが多い。マッスルバックの『Z-FORGED II』とZXi7を打ち比べると、前者のほうが軟らかいと感じる選手もいます。たとえば8番以下にZ-FORGED II、7番より上をZXi7のコンボを組むとすると、番手によって打感が大きく変わることは避けたい。ですので、ZXi7をマッスルバックの打感に近づけたことは意味があると考えています」

最近のスイングトレンドは無視できない

打感の改善を主たるテーマに据えて開発されたZXiシリーズのアイアンであるが、一見しただけではほとんど判別不能な、しかしプロにとっては重要な変更点があるという。

「実はスコアラインのトウ側先端を0.5mm短くしたんです。感度の高い選手は、前作はフェースがトウに寄りすぎだと感じていたそうです。2023年のダンロップフェニックスに来日したブルックス・ケプカ選手に見てもらったら、スコアラインが短くなったことを一瞬で見抜き『これは自分のスイングイメージにより合致する』と言ってもらえました」

わずか0.5mm短くなったスコアラインにより、フェース全体の印象が変わるというプロの驚くべき感度。ケプカの言うスイングイメージへの合致というのは、実は開発陣も念頭においていたようだ。

「クラブ開発にはスイングのトレンドも無視するわけにはいきません。体の近くにヘッドを通し、フェースのヒール目でヒットするスイングが今のグローバルなトレンドで、松山英樹選手もこのイメージを持っていると聞きます」

スコアラインを短くしてフェースを気持ちヒール寄りに見せることで、選手のスイングイメージに合致させるヘッドを作る。我々アマチュアゴルファーには何とも理解が難しいこの変更点を、クラブ設計家の松吉宗之氏が解説してくれた。

「かつてはフェースを積極的にターンさせるスイングが主流だったので、アイアンの重心距離は短く、ヒール寄りの重心近くで強くヒットする傾向がありました。現在は弾道をクラブパス(インパクト前後のヘッド軌道)でコントロールする選手が多く、インパクト時のフェースを安定させるために重心距離は長くなってきています。また、強い球が出る位置をフェース中心に近づけるように設計し、ヒール寄りでヒットする必要はなくなってきています。

弾道計測器の発達によってスイングの考え方が変わってきており、その過渡期にいる選手は、物理的にはフェースが安定する重心性能を求めつつ、今までと同じくシャフトから近いエリアで打とうとします。重心を遠くにするために昔より大型化したヘッドでも、今までの位置でインパクトしたい。となるとZXi7のようにヘッドの大きさを維持したままスコアラインだけ短くし、『打ちたい』と思わせる場所をヒール寄りに調整したのではないでしょうか。

スコアラインをヒール寄りにするとフェース面上の重心点はセンターに近づくので、結果的にヒール側に少し移動したフェースセンターでヒットすることで、強い球が出るようにもなります。開発側が求めた物理的な性能と選手が培ってきた感覚的な性能をマッチさせることで、バランスの取れたアイアンが完成したと言えます」

ZXiアイアンには、選手の感覚と技術を引き出すための細かな工夫が詰まっているのだ。

ブリヂストンも打感の向上を強調する

続いて「241CB」も研究してみよう。ブリヂストンも新作の「打感」を強くアピールする。評価の高い前作をブラッシュアップするにあたり、何を変えるかは苦慮したようだ。241CB、242CB+を開発した同社クラブ商品企画2ユニット課長、北川知憲氏に話を聞いた。

「241CBは前作比で打感と抜けを向上させました。打感は素材、重心位置、ソール形状に左右されると考えています。開発時には打感に対する具体的な数字はなく、最終的にはヒューマンテストの評価で決定します。しかし、誰かの一存で決めることはしません。また、今回のように打感を良くする目的のもとに完成したものの評価が高いのはいいのですが、打感以外の性能向上を目指したモデルの打感は注意しなければならないと思っています」

“打”った“感”触というだけあって、この時代に実にアナログな、しかし真っ当な物作り。その打感の向上は何を意味するのか、ブリヂストンの見解はこうだ。

「打感はショットの“納得感”に直結しています。ナイスショットの感覚を得られやすいですし、逆にミスショットの認識もしやすいです。スキルの高いプレーヤーほど、イメージ通りのショットが打てるかどうかを気にするからです」

では、打感以外に241CBが変わった点はどこなのか?

「前作から顔はほとんど変わっていません。設計上の輪郭は同じで、ネック周りがすっきり見えるような微調整を施しただけです。ソール形状に関しては、他社モデル含めていろいろ研究しました。幅、曲率、削りやエッジの落とし方をいろいろ変えたり、他社のコピーを作ったりして検証してきましたが、プロには前作に近い形状の評判が高かったです」

ツアーで選ばれるアイアンには、当然ながらプロの評価が重要視される。

「プロがアイアンに求めるのは見た目と打感、そしてイメージ通りに放たれる弾道です。開発側からみると、今の選手は昔よりも球筋を作らない傾向にあると感じています。それがボールのチョイスにも現れており、『TOUR B X』を使って比較的真っすぐ打っていく選手が多いと思っています。アイアンのヘッドサイズは好みの部分もありますが、サイズを問わずおおむねこのような傾向です」

選手が弾道を曲げていくと考えるスリクソンと、比較的真っすぐ打っていくというブリヂストン。プロから届く声の違いも興味深い。次回はこれらのアイアンを競合モデルの鍛造キャビティと計測比較し、性能を明らかにしていく。(取材・構成/中島俊介)

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