タイガー・ウッズのパッティング練習に密着 グリーン上に3本のティペグ
「ショートゲームシェフ×トム・キム」に密着 アプローチ専門コーチは何を教える?
5月中旬に行われた「全米プロゴルフ選手権」の会場、バルハラGCには名だたるコーチが多く集結していたが、その中でも気になる存在がいた。“ショートゲームシェフ”の異名を持つパーカー・マクラクリン氏。PGAツアーに帯同している、アメリカのゴルフ界では名の知れたショートゲーム専門のコーチだ。
ハワイ出身のマクラクリン氏は現在45歳。2008年に1勝を挙げたツアープロでもある。ショートゲームが得意だったこともあり、試合に出ながら徐々にアマチュア向けのレッスンを始めるようになったという。彼の立ち上げた「ショートゲームシェフ」というメンバーシップサイトで、チップショット(転がしベースのアプローチ)やピッチショット(上げて止めるアプローチ)、バンカーショットなどアプローチ上達に役立つ動画をいくつもアップしている。
ほどなくして連絡が届いたケビン・ストリールマンを教えるようになり、そこからツアープロも教えることになった。今ではキース・ミッチェル、トム・キム(韓国)、サム・バーンズらシード選手も指導するようになり、ショートゲーム専門コーチという新たな分野で道を切り開いている。
アプローチ練習場でキムを待っていたマクラクリン氏に声をかけると、「日本から取材に来たのかい?メンバーシップの中には日本の人たちもけっこういるんだよ。僕の記事をいっぱい書いてくれよ」と実にフレンドリー。「先月は韓国に行って、レッスンのイベントをやってきたんだ」と、どうやらアメリカだけでなく世界中に生徒がいるようだ。全米プロ前週の「ウェルズファーゴ選手権」でキムが絶妙なアプローチでバーディを取っていたという話を彼にすると、「そうだろ、そうだろ。トムのショートゲームはすごく良くなってきているからね」と顔をほころばせた。
それにしても、ショートゲーム専門コーチとはどんなことを教えているのか。実際にキムが現れたので、そのまま2人のやり取りを観察することにした。キムはウェッジ3本をバッグから取り出し、マクラクリン氏はボールのかごを持ち、一緒にグリーン周りを歩き始めた。
マクラクリン氏は、おもむろにグリーン周りの1点にボールを置き、「あそこに打て」と言わんばかりに、グリーン上のいくつかあるピンのうちの一つを指さした。キムはウェッジを一本選び、素振りをしてイメージを膨らませたのち、チップショットで寄せていった。結果は2mほどショート。実に悔しそうな表情をみせるキム。同じ場所からもう1球打つのかと思いきや、2人は違う場所に移動した。
マクラクリン氏は、続いてラフにボールを置き、ピンを指さす。キムは再びピンを狙ってボールを打ち、これは“OKゾーン”へ。2人は続けて次の場所を探しに移動する。
見ていると練習はすべて1球ずつ。グリーン周りを一周しながら、バンカーも含めてあらゆるライとグリーン状況に応じたアプローチを打ち進める。左足下がり、つま先上がり、芝の薄いライ、深いラフ、ピンがショートサイド、ピンが段の奥など、一つとして同じ状況では打たせない。時にキムはピンのそばまで行ってグリーンのラインを読むなど、実戦のように時間をかけて行っているのが印象的だった。
これはいわゆる「ランダム」という、毎打状況を変える練習法。ミスをしても打ち直しができないため、より実戦に近い、まさに本番のような練習だ。アプローチの基礎である「打ち方」の練習は事前に十分やってきた上で、試合前の実戦練習(応用)を行っているのだろう。
その後、グリーンから少し離れた平らな場所に移動し、50ydほどのショット練習を始めた。手前ピン、真ん中のピン、奥ピンと狙いを変え、足(ラン)を使うのか、高さで止めるのか、いろいろな状況を想定して3つのピンを打ち分ける。手前ピンは足を使えないので高さで止め、奥ピンは足を使いながら寄せていく。いかにも実戦に則した練習に見え、試合の状況がイメージできた。
練習時間はトータル40分ぐらい。一通りのセッションが終わると、キムはマクラクリン氏に別れを告げて打撃練習場に向かった。続けてサム・バーンズがアプローチ練習場に現れ、マクラクリン氏と同じような練習をイチからスタート。良いコーチには、次から次へと人が集まってくる。そんなシーンを垣間見た気がした。(編集部/服部謙二郎)
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