自分で選ぶ、自分で直す ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(2)
PGAツアー選手の育て方 ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(1)
わが子をプロゴルファーに。トッププロの若年化が進む昨今、そう願う大人は決して少なくありません。アスリートの親として、コーチとして必要なこととは何か。2022年までにPGAツアーで15勝を挙げたジャスティン・トーマス(通称JT)選手の父であり、全米プロゴルフ協会(PGA)公認のティーチングプロでもあるマイク・トーマス氏が指導方針と“子育て論”を語ります。コラム初回はJTの幼少期を振り返ってもらいました。(全5回/聞き手・田辺安啓)
ジャスティンは1歳でゴルフを始めた
ジャスティンがボールを打ち始めたのは2歳になる前でした。幼い子どもは親のことをなんとなく真似るものですよね。当時、私が所属プロとして働いていたゴルフ場、ケンタッキー州ルイビルのハーモニーランディング・カントリークラブは自宅から2マイル(約1.6km)と離れておらず、仕事が終わった夕方6時頃から5ホールくらいプレーするのが日常でした。そこに妻のジャニーが運転するカートに乗せられてやってきたジャスティンは、ちゃんと歩き始める前にボールを打つようになったのです。
ゴルフ場の環境も良く、メンバー間のルールも寛容でした。米国にも2、3歳の子どもがボールを打つのを嫌がるクラブもありますが、メンバーの多くが『今日、ジャスティンは何時に来るの?』といった具合で。私はクラブのヘッドプロとして生徒にレッスンをしたり、競技を仕切ったりと毎日仕事が多かったのですが、そのうち息子はいつもひとりでボールを打ちたがるようになっていました。
彼がどの年代においても、同世代の子どもができそうにないことを先んじてできたことは確かです。2歳でもボールにちゃんとインパクトして、6歳頃までには「ドローとフェードが打てるようになったよ」と言い、実際に私に見せてくれました。ショットに球筋があること自体、私は教えたこともなければ、話したことすらなかった。テレビの中継でアナウンサーが『フェードを打ちました』、『ドローで狙います』と言うのを聞いて自分で覚えたようです。驚き以外の何ものでもなかった。
ルイビル(ケンタッキー州)は冬になると雪が降り、2カ月ほどゴルフができません。その間、ジャスティンはクラブに触らずにいました。テレビゲームに夢中でしたが、タイガー・ウッズがメジャーで優勝した時のビデオを繰り返し見ていましたね。「ライダーカップ」のビデオを見始めると、もう止まりません。最後まで見たら、また最初から。そこでゴルフのルーティンのようなものを覚えたのでしょう。
11、12歳になると、低弾道と高弾道、ドローとフェードの打ち分けはお手のもので、ショートゲームでも球筋を打ち分けていた。私は彼にいつも驚かされていたというのが実情です。その頃は、想像力や創造性を鍛えるために木の上やゴルフカートを越えるようなショットにチャレンジさせたり、パットやチップショットでクォーター(25セント)を賭けて勝負をしたりしました。
10歳頃に出場した試合では、スコアに1ドルを賭けたこともありました。ジャスティンは大たたきして不本意な成績に終わってしまった。私がキャディをしたのですが、彼は憮然(ぶぜん)として早足に歩き始めたので慌てて追いかけました。約束通り、彼は私に1ドルを払いましたよ。小さな紙に書いた「このお金は賢く使ってね。(パパに)支払うのはこれが最後だから!!」というメッセージ付きでね(笑)
子どもを指導するときは、年齢によってできることが違うことを大人が理解している必要があります。私は5歳の子が相手なら、レッスンにゲーム性を持たせることを考えます。チッピング合戦や、ドライバーショットを決められた場所に打つだとか、チャレンジすることの楽しさを教えるのです。
何より、年齢を問わず、子どもによって教えるべき内容は変わります。5歳で色々と教えられる子もいますし、10歳でもレッスンを受けることに向いていない子もいます。興味の対象も異なるので、決まったモデルはありません。その子が上手くなるためには、その子の能力、力量に合わせて、適した方法を考えなければなりません。
「プロになる」は8歳のとき
ジャスティンは8歳で「プロになることが目標」だと言いました。それからは本当によく練習した。週に6、7日。平日は学校から直接コースに妻が送り届けていました。私の仕事と練習が終わるのを午後6時、7時頃までボールを打って待っていたのです。
周りの人からは「また練習しているね、大丈夫? 燃え尽きたりしない?」と心配されましたが、私は練習するよう指示したことなど一度もないので心配したことはありませんでした。彼はただ、自分が好きで練習していた。好きでやっていることで燃え尽きる危険性はないのでしょう。
これまで何度も『ジャスティンがプロになれる、勝てるようになるといつ思ったか?』と聞かれてきました。ただ私は、ツアーで初優勝(2015年CIMBクラシック)するまで勝つとは思わなかったし、そもそも第一線でプレーできる才能があるとも思えなかった。彼が小さい頃、周りのメンバーさんや親御さんは『ジャスティンはプロになれる』と言ってくれましたが、私の思いはそこにはありません。彼自身がゴルフを楽しんでいるかどうか、毎日を面白いと思って過ごしているかどうかをいつも気にしていました。
子どもが安全に、楽しく生きているかが肝心であって、ゴルフが上手いかどうかは“オマケ”でした。ジュニアゴルフで優勝を重ねていた時ですら、ゴルフを押し付けたりはしませんでした。ジャスティンにとって勝敗は重要なことだったかもしれませんが、親の私たちにとっては、人格や他人との接し方のほうがよっぽど重要。ゴルフの道に進もうが、あるいは工学、医学を志そうが、好きかどうかが大切だと思うのです。
■ マイク・トーマス Mike Thomas
1959年10月15日、オハイオ州シンシナティ生まれ。父にプロゴルファーのポールさんを持つ。82年にケンタッキー州のモアヘッド州立大を卒業し、88年に全米プロゴルフ協会公認のヘッドプロに。90年に同州のルイビルに移住、ハーモニーランディングCCで勤務した。93年4月にジャニー夫人がジャスティンを出産。現在はフロリダ州ジュピターに在住。
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