PGAツアー選手の育て方 ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(1)
子どもの“重荷”にならない ジャスティン・トーマスの父が語る子育て論(4)
わが子をプロゴルファーに。トッププロの若年化が進む昨今、そう願う大人は決して少なくありません。アスリートの親として、コーチとして必要なこととは何か。2022年までにPGAツアーで15勝を挙げたジャスティン・トーマス(通称JT)選手の父であり、全米プロゴルフ協会(PGA)公認のティーチングプロでもあるマイク・トーマス氏が指導方針と“子育て論”を語ります。全5回のコラム第4回は親子の転戦ルールについて。(聞き手・田辺安啓)
コーチとして一緒に世界転戦
アラバマ大を卒業後、ジャスティンは2014年にPGAツアー下部のコーンフェリーツアー(当時ウェブドットコムツアー)で腕を磨きました。その頃、私はまだフルタイムでゴルフ場に勤務していました。ジャスティンがまだレンタカーを乗りこなす生活に慣れていなかったので、妻のジャニーがどの試合にも付いて行っていました。
15年にPGAツアーに定着し、最初のうちの何試合かはジャニーが帯同しましたが、大会からオフィシャルカーが提供されるようになると、彼はひとりで全米を転戦しました。私はクラブプロとしての仕事がありましたから、試合の練習日、つまり月曜から水曜に会場でコーチをして、週末に自宅に戻るという生活。2017年に「全米プロ」で優勝した時も同じで、私は所属クラブで練習場のボールを拾ったり、クラブを洗ったりしていたのです。
フルタイムでのクラブプロの仕事を辞めたのは2019年。会場で指導する大会が年間7、8…と増えるにつれ、私からジャスティンに「試合会場に来る頻度はどのくらいがいいか?」と聞くと、彼は「もっと来てほしい」と答えた。そこで今はほぼ全試合に帯同しています。
ジャスティンはルーキーイヤーから良い経験を積んで、それなりの滑り出しをしたと考えていましたが、彼自身は本当に高い目標を持ち続けていました。シードを取っても「それが普通だ」と思っていたようで、私の期待よりも、彼が自分自身に求めているものの方がずっと大きかった。私の方がジャスティンの基準に合わせて、自分を高め、彼を追い込むようでなくてはいけないと思うほどです。
同じ宿には泊まらない
ところで私たち夫婦は、ジャスティンが出場するPGAツアーの会場にいますが、なるべく彼と同じところには宿泊しないようにしています。彼はコース近くの家を借りることが多いのですが、私たちは別のホテルに泊まる。週に1度は一緒にご飯を食べたりしますが。
コースでコーチングをしていると、1日に7、8時間と一緒にいることになるわけです。親子にはそれぞれの生活がある。人や家族によって違うでしょうが、私個人としては、コーチであり父である私と、選手であり息子であるジャスティンとの付き合い方は“友達のような関係性”が一番でいいと思っています。なんとなく近くにいるような存在であることが最も大切で、次がコーチとしての存在。親としての存在はコースでは最後になるでしょうか。
ジャスティンにとって、親としての私たちが重荷になってほしくない。必要な時に来てくれて、良い成績を出すためにちゃんと仕事をしてくれる存在と思ってもらえれば十分。ですから、同じコースにいても朝食もランチも一緒に食べないようにしています。私たちがいつも近くにいたら彼もイヤでしょう。
コーチとしての役割と、父としての役割はケースバイケース。なるべく“軽い感じ“で接するようにしていますが、ジャスティンから(コーチとして)「もっと言ってくれ」と言われることもあったので、要求に応じてもっと押し付けるような態度に変えた方がいいのかな…と思う時もあります。でも私はコーチとしてもゴルフを押し付けたことが一度もない。親としては押し付けたくない気持ちがより強いですから、難しいところです(笑)。
そのレッスンはナンセンス
私はジュニアも教えるコーチですから、親御さんから『親としての在り方』を問われることもあります。ただ、それを教えることは本当に難しい。ただ、親が子どもにゴルフのプレーについて干渉(detrimental)しているときは、「干渉するな」と言いたい。
ゴルフの指導において、その選手が3パットをしたとか、トリプルボギーをたたいたとか、目の前の結果で、子どもを叱責するようなレッスンはナンセンス。
子どもたちは、選手はすでに3パットしたこと、トリプルを記録したことも分かっている。打とうとして打ったわけがない。池に入れようとして入れるわけがない。分かり切っている事実をことさら強調したところで良いことはありません。マイナスの結果から上達のために必要なのは、プラスの方向に向くようサポートすること。子どもたちはすでに自分をコースで責めているわけですから、親が傷口に塩を塗るようではいけません。
悪かったラウンドの直後は、「良かったこと」を挙げる作業をしています。2オーバーだったラウンドの後、ジャスティンも私たちも、スコアが悪かったことは当然把握している。そこを掘り下げるのではなく、「4回バンカーに入ったけれど、3回セーブできた」といったように、良かった点を考えます。
その後、一緒に練習場に行くでしょう。練習を始めた時に、具体的に悪かったポイントを話し合う。「パットをカップの左に外すシーンが多かった」という時は「フェースがクローズに入っていた?」、「ヘッドを外に出し過ぎていた?」と改善点を絞っていきます。
ほめ過ぎない
一方で、スコアが良かった時もほめ過ぎないようにも注意しています。そもそも、息子のことをゴルフの成績で判断しないと決めている。スコアが悪くても悪い人間になったわけではないし、スコアが良かったからといって素晴らしい人間になったわけではない(笑)。ジャスティンが優勝した時、多くの人から「自慢の息子さんだねえ」なんて言われますが、私たちにとって彼は優勝したから自慢の息子になったわけではありません。
好結果が出たときは「よく頑張った」「努力が実った」と思いますが、自慢の息子かどうかという点においては、優勝という結果は関係がない。チャリティ活動への取り組みや、他人との接し方、彼自身の性格といったところで自慢の息子かどうかが決まるのです。本当に大切なのはゴルファーとしての成績ではなく、人格なのです。
■ マイク・トーマス Mike Thomas
1959年10月15日、オハイオ州シンシナティ生まれ。父にプロゴルファーのポールさんを持つ。82年にケンタッキー州のモアヘッド州立大を卒業し、88年に全米プロゴルフ協会公認のヘッドプロに。90年に同州のルイビルに移住、ハーモニーランディングCCで勤務した。93年4月にジャニー夫人がジャスティンを出産。現在はフロリダ州ジュピターに在住。
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