キャロウェイ特集
2024/01/12

キャロウェイのAIフェースはやさしさのためにある

連載:AIフェース開発の旅
「AI」を前面に押し出したキャロウェイの新作「パラダイム Ai スモーク」ドライバー。新開発のAiスマートフェースを搭載、進化した360°カーボンシャーシと融合(撮影:橋本裕介)

昨今話題のAI(人工知能)技術。その進化はとどまるところを知らない。ゴルフ界でAIをいち早く取り入れたのがキャロウェイゴルフだ。2019年にAIを採用したクラブを発売するなど、いまや業界では突出している。そして2024年、さらに進化したAI設計のクラブを発表した。同社のAIの系譜を追った。

■AIを前面に

ソールの柄は速さをイメージする「スモーク」を演出(撮影:橋本裕介)

人間の棋士をしのぐレベルとされる将棋AIは有名だが、ゴルフにおいては、AIが人間を助けてくれる。キャロウェイゴルフが世に送り出してきたAI設計クラブのことだ。

2023年ツアー部門でもナンバーワン勝率をマークした『パラダイム』の後継として、2024年の年初に新発表した『パラダイム Aiスモーク』は、キャロウェイのクラブで初めてAIの名前を採用した。

名称には、英語のスラングで「速さ」をイメージする「スモーク」が加わった。同社のパターブランド、オデッセイが昨年発売した『Ai-ONEパター』で先鞭をつけ、満を持して登場した「Ai」を冠したクラブである。

■ドライバーのAI試作は2017年から

初めてAI設計のフェースを採用した「エピック フラッシュ」(提供:キャロウェイゴルフ)

キャロウェイゴルフのマーケティング担当者の説明によると、同社がAIを採用したのは2009年。スーパーコンピューターを導入し、それまで蓄えた技術などのデータを取り込んだ。初めてAIを使って実験を始めたのは2016年。ゴルフボールのインパクト時に起こる現象をAIでチェックして分析するというものだったという。同年、アイアンのフェースをAIで試作している。

2017年には、フェースの裏側に2本の柱「ジェイルブレイク」を搭載した『GBBエピック』を発売したが、「その裏で実は、ドライバーのフェースをAIでつくってどんな効果が出るか試作を開始。ボールスピードを上げる効果が出るフェースをつくっていた」と明かす。

そして、スーパーコンピューターのアップグレードを経て2019年、ゴルフ用具としては世界で初めてAI設計の「フラッシュフェース」を搭載した『エピック フラッシュ』を発売した。ドライバーのフェースは通常、中央が厚く、エッジの周囲が薄くなる形状を採用しているが、AIがボールスピードに注力して設計したフェースは、研究開発チームのメンバーをも驚かせる独特の形状だった。

■膨大なインプットデータと処理能力の進化

AIを採用したキャロウェイの歴代ドライバー。(左から)2020年「MAVRIK」、2021年「EPIC SPEED」、2022年「ROGUE ST」(提供:キャロウェイゴルフ)

当初、AIにインプットしたデータはボール初速の最大化、耐久性、ルール適合といった要素だったが、スーパーコンピューターの処理能力向上、研究開発チームのレベルアップでチャレンジは加速した。

2020年発売の『マーベリック』に搭載されたフラッシュフェースはボールスピードだけでなく、打ち出し角の適正データを追加。2022年発売の『ローグST』のそれはゴルファーの打点傾向に加え、飛びの三要素であるスピン量、打ち出し角、ボール初速をAIの入力データに加えた。

2023年の「パラダイム」は、AI設計のフェースがさらに進化して登場、360°カーボンシャーシも話題に(撮影:落合隆仁)

さらに、着弾地点のブレ幅などを加えてAI設計されたフェースを搭載したのが2023年発売の『パラダイム』で、「やさしさと飛ばし」を両立させた。

「これまでのフラッシュフェースはロボットテストで仮想スイングのデータを入れていた。こういった傾向があるだろうというスイングデータ。条件としては、インパクトのときにスクエアのインパクトである、ということでした」(前出の担当者、以下同)

■リアルなスイングデータから100万以上のデータをインプット

「AI」を名称に採用した「パラダイム Ai スモーク」シリーズ(提供:キャロウェイゴルフ)

その入力データが大きく変わった。『パラダイム Aiスモーク』の「Aiスマートフェース」はこれまでとは違い、“リアルなデータ”がAIにインプットされて、つくり上げられたことが最大の特徴だ。日本を含めた世界中にあるキャロウェイ フィッティング スタジオから収集された膨大なデータが生かされた。

データは、プロはもちろん、年齢や性別など関係なくすべて入っており、「スイングのパターンでいうと約25万スイング。当たった時のロフト角やライ角、ヘッドスピードの差などもあるので100万以上のデータになっている」

リアルなスイングデータとなると、いいショットもあればミスもある。フェースを開いたり閉じたり、人によって当たる部分も違う。「それがすべてアメリカのコンピューターにインプットされ、今までにないフェースがつくりあげられた」

■どこに当たってもフェアウェイへ

「パラダイム」と「パラダイム Ai スモーク MAX」の22カ所のインパクトにおけるロボットテストの比較数値(提供:キャロウェイゴルフ)

「人の手によるコード入力はパラダイムが3万行だったのに対し、今回は8万行に」。これが100万以上のスイングデータ解析と組み合わさってAIがつくりだしたフェースは、5万回に及ぶAIによるバーチャルテストを繰り返して、完成を見る。

リアルデータがプログラムされ、さらに「フェースの全面がトランポリンのように動いてくれる」という機能「マイクロディフレクション」も加わり、フェーステクノロジーは飛躍的に進化。これまでボールスピードを出すために搭載してきたジェイルブレイクは外すことに。これもAIが導き出した答えだった。

さて、この先、キャロウェイのAI技術はどこへ向かうのか。

「すべてのゴルファーが、さらにゴルフを楽しんでいただくために進化をしていきます。パターなどはAi-ONEで初めてAI設計を搭載したカテゴリーですし、まだAIの設計が入っていないカテゴリーもあります。すでに導入されているドライバーなどでも、さらに細かな部分にも進化する部分が残されています」

極論すれば、将来的には個々のゴルファーに合ったAIによるフェース設計も物理的には可能となる。

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