「傷がつきにくい」は本当か?その噂の真相に迫る/大人の社会科見学「ブリヂストンボール開発 M&Dセンター秩父」#3
ブリヂストンのボールの生産拠点を訪れた取材陣は、さらに取材を深めた。プロからもアマチュアからも評価される、「ブリヂストンのボールは傷がつきにくい」の事実に迫った。そこに科学的な裏付けはあったのか。(第3回/全5回)
「傷がつきにくい」の科学的な裏付け
プロゴルファーは数ホールでボールを替える選手は多い。だが、ブリヂストンのボールを使っている選手は少し事情が異なる。
中学生の頃から同ボールを使用する古江彩佳は「他の選手からよく『ボールが長持ちするね』と言われます。ブリヂストンのボールは昔から傷がつきにくいので流れが良かったら1日1個でプレーできます。気分転換したいときはハーフで替えるときもありますけど、性能的には全く問題ありません」と言うほど。
AIG女子オープンで優勝した桑木志帆も「傷つきにくくてとても気に入っています。1試合で使うボールは4日間で2~4球」と非常に少ない。
プロだけでなくアマチュアの競技ゴルファーの間でも「傷がつきにくい」と評判になっているというのだ。なぜブリヂストンのボールは耐久性が高いのか。
「(傷がつきにくいと評判の)『TOUR B』シリーズのカバー材料にはウレタンが使われています。ウレタンは世間一般で広く使われている馴染みの深い材料ですが、我々が使っているウレタン材料は30年以上の期間をかけてゴルフボールに最適になるように作り上げた、一般に流通していない特殊なものです」と深沢秀士氏は説明に力を込める。
「ウレタンを厚さ1mmより薄く成形すること自体、難易度が高い。それでも、添加剤も含めて分子構造から設計することで、その難題を解決させています」
ブリヂストンが世界で初めてウレタンカバーのボールを発売したのが2000年の「U-SPIN」。もちろんその開発には数年以上の歳月がかかっていたが、当時はウェッジショットをしたときにカバーに傷がつきやすいという声もあった。そこから更に25年以上の歳月をかけ、傷つきにくいウレタンカバーの開発を進め、耐久性を高めてきたわけだ。
「自社のウレタンカバーには、熱可塑性ウレタン材料(熱すると軟らかくなり冷めると硬くなる)を採用しています。他の熱可塑性材料とブレンドすることで、新しい複合素材の設計が可能になりました。従来の熱硬化型ウレタン(加熱すると化学反応を起こして硬化し、軟らかくならない)では難しい手法であり、素材開発の自由度を大きく広げています。こうした技術を活用することで、より高い耐久性やスピン性能、打感や乗り感などを追求しています」
さらに近年はカバー上のコーティング技術も高くなっているという。「ボールのトップコートの主な目的は、外観保護や装飾です。ゴルフボールは、クラブで打撃され、回転した状態で地上に落下、時にはカート道など硬い場所に衝突することもあります。こうした過酷な使用環境に耐えるため、トップコートには、強い耐久性が求められます」
材料チームは、コアやカバー層と同様に、トップコートもゴルフボールの性能に大きく関わる設計要素として重要視している。
「砂や泥対策もトップコートの狙いのひとつ。バンカーショットで砂と共に打撃されることも多いため、耐摩耗性も重要です。さらに芝による草汁の付着など、汚れへの対策も配慮しています。トップコートはクラブと接触する重要な部分であり、耐久性だけではなく、スピン特性にも影響を与えます」
その設計思想から生まれたものが、「スリップレス・バイトコーティング」だった。
「このコーティングは、ドライバーショットでは低スピン化を実現し、アプローチショットでは高いスピンを生み出すという、相反する特性を両立しています。つまり、飛距離とコントロール性能の両方を高めることができます。加えて、表面についた小さな凹み傷程度であれば、傷を弾性で押し戻して回復する自己修復機能が備わっています。小さい凹み傷であれば、時間の経過ともに目立たなくなります」と深沢氏。
自己修復機能とはまるで生き物のよう。ゴルフボールは消耗品だからこそ、長持ちするボールは魅力的に映る。特に物価が高騰した今の時代だから、余計にそう思ってしまう。
最後にイエローボール(TOUR B XS)を使ってメジャー優勝を果たした桑木志帆の最新コメントを付け加えておきたい。
「イエローボールはとにかく英国でも目だち、見やすかったです。(試合会場の)ロイヤルリザムは空も曇り、芝も枯れていて、ボールの行方が分かりにくい中、地面でも空中でも分かりやすかった。コース内でボールの存在がすぐに分かるので、自分の球の所へすぐに行くことができ、次のショットのイメージも早く作りやすい。全英でも助けられました」と桑木。
プレーオフの1ホール目、ブッシュの中に入ったボールが簡単に見つかったのは言うまでもない。そこからの見事なパーセーブが、2ホール目での勝利につながった。
次回は、タイガーウッズが言う「ディープ感」を形にする難しさをお届けしたい。(取材・構成/服部謙二郎)