タイガー・ウッズが求めた「ディープ感」を形にする戦い/大人の社会科見学「ブリヂストンボール開発 M&Dセンター秩父」#4

ボール開発の始まりは1932年 “Bの歴史”をお勉強/大人の社会科見学「ブリヂストンボール開発」埼玉県秩父 #1
タイガー・ウッズのボールテスト風景

近年のブリヂストンのボール開発に大きな影響を与えたのは、2017年より契約を結んだタイガー・ウッズだろう。ウッズが求めた「ディープ感」という言葉も有名になったが、ブリヂストンではそのディープ感を数値化して開発を進めてきたという。第4回はボール解析のスペシャリストを取材した。(第4回/全5回)

ディープ感とは低音で深みのある音

プロゴルファーはクラブ、ボールについて感覚的な表現をすることが多い。特にボールはその傾向が強い。「硬い」「軟らかい」だけではなく、「食いつく」「つぶれる」「芯がある」など独特の表現も少なくない。ウッズが求める「ディープ感」は最もユニークな表現だった。

ディープ感とは何なのか? 今回は入社以来、ゴルフボールの評価を担当し、米国のテストセンターでも約5年間勤務した経験を持つ解析評価技術開発ユニットの清水拓市さんに取材した。

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ゴルフボール評価のスペシャリスト清水拓市さん

タイガー・ウッズ選手と新商品のためのボールテストをした際、アプローチショットでよりスピンがかかるプロトタイプを渡したのですが、あまり気に入ってもらえなかったんです。その時に、彼の口から出てきた言葉が『ディープ感が足りない』でした。最初は『ディープ感』とはどういうことなのだろうとなりましたが、研究を進めていくうちに、アプローチショット時のある音の特性が彼がいう『ディープ感』につながっていることがわかりました」と清水氏は振りかえった。

次のテストに、ディープ感が足りない原因になっていた音の特性を抑えたプロトタイプを持っていったところ、ウッズは球を打ちながら何度も頷いていたという。彼が求めた「ディープ感」の音に、どうやってたどり着いたのだろうか。

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ドライバーショットの感触を確かめるウッズ

「打感は音から来ている部分がすごく大きいんです。耳栓をすると打感が全く分からなくなります。たまたま縁があって、2014年から音響のプロであるパイオニアさんと共同研究できることになり、クラブとボールが衝突する音を何十回、何百回と実際に聴いてもらい、プロが感じている打感の違いを音として感じ取ってもらいました。そこから、打感の違いの原因となる音の特性を数値で解析してもらい、プロが求める打感を数値化する技術を学ぶことができました」と清水氏。

「当時のパイオニアさんとの研究対象は、主にドライバーショットでのボールの打感研究でしたが、学んだ音響解析の技術が、ウッズ選手がアプローチショットに求めるディープ感を数値化する大きなヒントとなりました」

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音の高低も数値化して開発に生かす

清水氏は解説を続けた。

「彼が表現する打感は、クリッキーな音とディープな音の2種類がありました。クリッキーというのはいわゆるマウスのカチカチッというような音で、高音で軽い感じの領域。一方で彼が好むディープは低音で深みのある音です。パイオニアさんとの知見を活かし、音を聴きこみながら様々な実験を重ねるうちに、ディープ感が足りないとした打音のとある領域にボール起因の独特な特性を見出すことができました。そして材料チームと連携し、その特性を抑える素材をカバー材に配合したボールを作り、彼からの『OK』がでたのです」。まさに清水氏含む、開発チームの努力が実った瞬間だった。

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試打ロボットでインパクト音を採取

ブリヂストンでは性能的に良いボールが出来ても、音が全くダメでNGになることもある。

「タイガーが表現する“ディープ感”をきっかけに、我々ボールチームは飛距離やスピンといった性能だけでなく、打感(音)の重要性を再認識することができました。これ以降、新商品開発の際は、材料開発の段階から音のテストを済ませていて、いくら性能が良くても『音≒打感』の要求を満たせないものは採用されません」

続けて「のり感」の数値化

音を数値化する技術には驚かされたが、ブリヂストンはフェースの「のり感」も具体的に数字に落とし込んで表現しているという。続けて見せてくれたのは特殊な装置だった。

「昔からプロは“のり感”という表現を使いますが、それを数字化するために開発したのがこの装置です」と言って見せてくれたのは、まるで“ピタゴラスイッチ”のような仕掛けで動き出す独自開発の機械だった。

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のり感を説明する清水氏

“特殊な機械”ではボールが接触した瞬間の動画が映しだされていた。「接触して離れる瞬間があるんですけど、 ここの赤のポイントのところで接触して、 黄色のところで離れるんですよ。距離にしてだいたい数mmぐらい。つまりそのぐらいフェースの上を滑っているということです。その違いが、フェースに乗る感覚の違いなのだと思います。短いアプローチぐらいのヘッドスピードなので、これは本当に短い距離の話。軟らかいウレタンカバーとコーティングの組み合わせであれば、速度が遅めの衝突でも、 ディンプルの中までグニュッとフェースにくっついて滑らないのが分かります」

このフェース上の数mmの“滑り”がのり感なのだろう。

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ボールが接触した瞬間の映像。ディンプルの中まで接触しているのがわかる(右)

この装置はフルショットを想定したものではない。それにも理由があった。

「よく我々は新しいボールを持ってプロのところにいくのですが、プロはどこからテストするかと言えばパターや短いアプローチなんです。ウッズ選手はパターです。昔、マット・クーチャー選手のところに行ったときはグリーンエッジからチョンと打ちはじめました。キャリーで10から15ydくらいの距離です。彼からは『自分はここなんだ。ここで稼いでいる』って言われました。ツアープロが求めているのはフルショットでの打感だけではなく、本当に短い距離を打つときのコントロール性能でした」

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ウッズはパター、アプローチとテストをしていく

ブリヂストンゴルフは、2000年代からブリヂストン中央研究所(当時)と共同で、スピン発現のメカニズムの研究「接点の科学」を進めていた(第2回でも紹介)。タイヤの高速接地現象解析で培った予測技術と可視化技術をゴルフのインパクト現象に適用し2014年にドライバーのフェースにミーリング加工を施したテクノロジーもその一つだ。

ボールにおけるスリップレスバイトコーティングもその結晶の一つ。「タイヤの技術チームと一緒に共同研究できたことで、衝突の検証、高速カメラを使った画像解析の技術が非常に高くなり、プロの感性との連動が強くなったと感じています」

では、ブリヂストンのボールで最ものり感が良いのは?

「これまでの実験結果からいちばんのり感が良いのは『ツアーB XS』です。カバーが軟らかくて、スリップレスバイトコーティングによって滑りにくい。そしてコアも少し軟らかくしています。最近のツアーボールはコンプレッションの設定が高めになってきているので、のり感で言えば『ツアーB XS』に優位性があると思います」

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ウッズは元々「XS」ユーザーだったが、今は「X」に

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ウッズはディープ感を実現したブリヂストンのボールを打ったとき、「彼ら(開発チーム)はジーニアス(天才)」だと絶賛した。それは感覚だけに頼った開発ではない。長年にわたりトッププロの感性を解析し、数値化して積み重ねてきたブリヂストン開発チームの執念と生真面目さ。それがブリヂストンのボールには込められている。(取材・構成/服部謙二郎)

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