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50ヤード以内は打ち出し角を高く「ショートゲームシェフ」のレッスンに潜入取材 /後編

「ショートゲームシェフ」こと、パーカー・マクラクリンのアプローチセミナー。後編では第2のファミリーの話を中心にお届けしたい。

「ロフトの半分、プラスマイナス2度」が打ち出し角の目安

前編の最後に紹介したドリル(20~50ヤードを5ヤード刻みで1球ずつ順番に打っていくドリル)の途中、マクラクリンが興味深いデータを参加者と共有してくれた。ひとつは、50ヤードを超えるショットでは打ち出し角を30度以下に抑えるべきなのに対して、50ヤード以内のショットでは打ち出し角がそれ以上になってもいいということ。距離が長くなるほど、ボールが空中に高く上がるための時間が稼げるので、その分「落下角」も大きくなる(=止まりやすくなる)。一方で、短い距離ではその時間が稼げない分、最初から高めに打ち出す必要があるということだ。

「たとえばロリー(・マキロイ)は、15ヤードくらいのピッチの場合、33度前後の打ち出し角で打っていますが、50~100ヤードではそれよりだいぶ低く打ち出しています」とマクラクリン。

これについて、永井直樹コーチは、「タイトリストのツアーバンでフィッターをしている、アーロン・ディルに以前聞いたのですが、PGAツアーではそのとき使ったクラブのロフトの半分、プラスマイナス2度が、打ち出し角の目安になっているということでした。つまり54度のクラブで打ったら、「54÷2±2」で25~29度、60度のクラブで打つ場合は「60÷2±2」なので、28~32度に収まっていればいいということですね。アマチュアの場合は、ローポイント(スイングの最下点)がボールの手前になってしまうケースが多いので、基本的にはそれよりも打ち出しが高くなってしまうミスが多いです」という。

もうひとつ、マクラクリンが示したデータが、15~50ヤードのレンジで、PGAツアープレーヤーの場合、86%のショットは「クラブ」が最初に地面に触れているというものだった。これはつまり、スティープなアングルでボールを直接ヒットするのではなく、シャローなアングルでソール(バウンス)を滑らせるように打っているケースが多いということになる。

「目安として、スコアラインの下から2~5番目くらいの間でヒットできるように入射角をシャローにするほうがいいです。6番目より高い位置に当たる人は、入射角がスティープ過ぎるということです。スウィングをシャローにするには、ゲーリー・プレーヤーがやっていたような、打ったあとに右足を1歩踏み出すドリルが有効です」と、マクラクリン。

これに対して、目澤秀憲コーチは、「クラブが先に地面に当たっていると言っても、バウンスが触れているだけで、ボールに対してはロフト(リーディングエッジ)が直接当たっているはずですので、そこは勘違いしないように注意する必要があります。実際、プロとアマチュアを比べると、プロのほうが圧倒的に入射角はスティープです。プロの場合は、最初にスティープに打てる技術があって、ただそれだと打ち出し角が低くなってしまうのでシャローに打つことを覚えるわけですが、アマチュアは最初がシャロー(ローポイントが手前)のケースが多いので、そこでさらにシャローを意識してしまうと『事件』が起こりやすいです」と説明している。

「第2のファミリー」はヘッドスピードが大事

さて、セッションはバンカーショットへ移る。

「最初に説明したように、バンカーショットは第2のファミリーに属するショットで、基本のピッチショットよりも大きな筋肉を使い、手首のヒンジも使って打ちます。バンカーのセットアップは、以前言われていたようにオープンスタンスにはせずに、フェースだけを開きます。ボールからは少し離れて立ち、スタンス幅はやや広く、手元を少し下げて構えます。これで強く振ってもボールが飛ばない構えができました。バンカーではヘッドスピードがとても重要なので、アドレスでボールが飛ばない準備をしておくことで、安心して速く振れるというわけです」とマクラクリンは言う。

アドレスにおけるその他のポイントとしては、体重は左右の足に50%ずつ、あるいは左足に5%程度多めにかける、肩のラインを水平か、左肩がわずかに低い状態にする(ドライバーショットのように右肩を低くしない)、などを挙げた。

また、距離のあるバンカーショットの場合は、フェースを開く度合いを少なくし、手首を使う量を減らして、腕の振り幅を大きくすることで対応するが、「60度のウェッジで届かないなら、56度とか52度のウェッジで打つというのが、それよりも簡単で効果的な方法です。リッキー・ファウラーも、1ラウンドで少なくとも1回以上、グリーン周りのバンカーで52度のウェッジを使うと言っていました」とマクラクリン。

これについて、目澤コーチは、「58度だとスピンロフトが増えすぎてしまう(スピンで戻ってショートしやすくなる)という問題が、54度とか50度で打てば簡単に解消します」といい、永井コーチも、「アマチュアはボールを上げたくて軸が右に傾く人が多いですが、ピッチングウェッジでバンカーショットの練習をすると、自分が右に傾かずに(傾いてローポイントが手前になるとホームランになりやすい)、なおかつロフトを増やして打つ感覚が身につくのではないかと思います」と言っている。

第2ファミリーに属するバンカーショットの打ち方は、ラフから打つ場合にも応用できる。より深くラフに沈んでいるケースほど、手元を下げる量、手首のヒンジとリリースを使う度合いが増える。このとき重要なのが、「ソールのヒール側を地面に押し付けるように使うこと」と、マクラクリンは言う。

「バンカーで目玉だったり、深いラフだったりといった『エクストリームライ』(エクストリームは『極端な』という意味)になるほど、手首を使い、スイング軌道を少しアップライトにしてヒールから入れる必要がありますが、地面に当たったら終わりではなく、グリップを下向きに押し付けて、ヒール側のソールで地面を『掘る』イメージでスイングします」(マクラクリン)

クラブの構造としても、ソールのヒール側は地面を掘るような使い方、ソールのトウ側は地面の上を滑るような使い方をするように設計されているのだという。したがって、バンカーショットの場合は、どんなライであっても、「トウ側が砂に潜るように感じることはまずない」とマクラクリン。

目澤コーチは、「通常のアプローチでも、低いボールでスピンをかけたいというときは、少しスティープかつちょっとヒール側から入れる意識があるだけで、結果がかなり変わる可能性はあります。アマチュアでバウンスをトウ側とヒール側に分けて考えている人は少ないかもしれませんが、たとえば単品ウェッジをバッグに入れているような人であれば、ソールの使い方から逆算して、自分には本当はどんなウェッジが必要なのか、考えるきっかけになるかもしれません」という。

最後に、マクラクリンのようなトップコーチが日本でセミナーを開く機会は、現時点では非常に稀だが、その意義はどこにあるのか、目澤コーチに聞いた。

「パーカーのインスタグラムを見ていると、シャロー一辺倒の人なのかと思いきや、状況に応じてちゃんとスティープも使い分けていて、知識が豊富で柔軟な考えの持ち主だと感じました。デモンストレーション能力の高さにも驚きましたね。こうしたセミナーに、ジュニアも参加できるような環境が作れれば、すごく価値があると思います」

◇◇◇◇

パーカー・マクラクリンは、4月にも「KEN5.GOLF」のイベントで来日を予定している。(取材・構成/服部謙二郎)

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