「声を聞き、声を届ける」マーケティング担当の現場主義
アイデアの源は何気ないひと言
2011年から日本市場で発売された「モーダス3」シリーズが順調にゴルファーへ浸透していく中、実はもうひとつのプロジェクトが始動していた。それが2014年に誕生したウッド用カーボンシャフト「N.S.PRO Regio Formula(レジオ フォーミュラ)」の開発だ。
コンセプトを決める際、ヒントになったのが、栗原がある男子プロに言われた何気ないひと言だった。
「TOUR 120のプロモーションを行っていた際、『このシャフトにしたら飛距離が伸びた』と言われたんです。ということは、同じ剛性曲線のカーボンシャフトを作れれば、飛ぶはずだろうと考えました」
「営業」+「広報」で思考がマーケティングになっていることを自覚した栗原は、自らセミナーなどを積極的に受講するなど、基礎的なマーケティング知識を学ぶようにも努めたという。「マーケティングツールのデータに頼るより、自分の肌感覚でつかんだ情報やそれを元に感じた感覚を大切にしている」という“現場主義”がこだわりのスタイルだ。
栗原はこう続ける。「ゴルファーなら、ドライバーは調子がいいのにアイアンは不調になったり、アイアンはいいのにドライバーが不調になったりという経験があります。同じ剛性曲線のシャフトならば、ドライバーとアイアンの調子がそろうのではと考えました」
栗原のアイデアを具現化するにあたっては、日本シャフトのストロングポイントであるスチールシャフトとカーボンシャフトの両方を手がける総合シャフトメーカーであることが、もちろん大いに活きた。開発担当と連携しながらコンセプトの実現に取り組んだ。そして「N.S.PRO レジオ フォーミュラ」は、「TOUR 130」と相性がいい「レジオ フォーミュラ M」(14年)、「TOUR 120」と相性がいい「レジオ フォーミュラ B」(15年)、「SYTEM3 TOUR 125」や「TOUR 105」と相性がいい「レジオ フォーミュラ MB」(16年)という3モデルを発表した。
「初代レジオ フォーミュラの誕生と同時に始めたのが、ドライバーとアイアンのマッチングという他社にないプロモーションでした。ようやくここ2、3年で浸透してきたと実感があります。試打会会場などで一般ゴルファーの方に、『モーダス3を使っているんだけど、これに合うレジオ フォーミュラはどれですか』と尋ねられるとうれしくなりますね」。ユーザーの言葉でプロモーションの成功を確認していく積み重ねは、現場主義ならではの厳しさでもあり、喜びでもある。
最新モデルの発売を遅らせた理由
初代レジオ フォーミュラの誕生から5年。飛距離性能に磨きをかけた「N.S.PRO Regio Formula +(レジオ フォーミュラ プラス)」シリーズが登場した。
興味深いのは、3モデルの発売時期だ。「レジオ フォーミュラ M+」と「レジオ フォーミュラ B+」は2019年に同時発売されたが、すでにプロトタイプはできていた「レジオ フォーミュラ MB+」だけは、2021年1月に発売を遅らせている。それは、アイアンとのマッチングを見た時に、「レジオ フォーミュラ MB+」だけ明確な相性を表現できなかったからだ。
ただ、現場で感じていた変化の予兆から、栗原にははっきりとした狙いもあった。「19年当時、PGAツアーでスイングのトレンドが変わりつつあり、腕やフェースをローテーションさせずに振り抜くのが当たり前になってきていました。そのスイングに合うには、しっかり感があるシャフトが必須になります。現在、PGAツアーでは長めのクラブにも対応する硬さ、その長いクラブが彼らのヘッドスピードに耐えうる硬さであることが求められています。やや遅れてですが、ここ数年で一気に日本でもトレンドになってきました」
実際、軽くて硬い「TOUR 105」は2015年に発売されていたが、販売数が伸び始めたのはごく最近。硬めのシャフトが“軽硬”という表現などとともにしっかり認知され始めたタイミングで、満を持して「レジオ フォーミュラMB+」を発売したというわけだ。トレンドの波をとらえたおかげで、「MB+」は初代レジオ フォーミュラ以来のヒットにつながった。
「シャフトは1本数万円する高価なモノ。だからこそ、ゴルファーには買ってよかったと思ってもらいたいし、ひとつも後悔してほしくありません。そのために私ができるのは、開発の人間が気持ちを込めて作ったシャフトの情報を、ユーザーの皆様に正確に伝えること。今後もトレンドを読み、ゴルファーの声に耳を傾けながら、バランスのよいプロモーション活動をやっていきます」
ナイスショットの心地良さを一つでも多く世界に生み出すため、声を聞き、声を届ける。ゴルフの明日を見据える強い意志を、栗原は笑顔で語ってくれた。