ドライバーシャフト「6S神話」はもはや崩壊か?/女子プロクラブ考VOL.3
昨年の秋口に大々的な女子プロのクラブ調査を行ったが、彼女たちがどんなクラブを使って、どんなスペックなのかはほぼ同じヘッドスピード(以下HS)の我々のクラブ選びに大いに参考になるだろう。膨大なデータを元に、女子プロの傾向をギアマニアが分析・検証していく。3回目はドライバーのシャフトについて。
圧倒的に50グラム台が優勢 60グラム台はたった6人
ゴルファーなら「6S神話」という言葉を聞いたことがある人も多いと思う。「6S」の「6」とはいわゆる60グラム台、「S」とはフレックスのSで、つまりドライバーのシャフトには、60グラム台のSを選んでおけば“大外れ”はしないということが、まことしやかに言われていた時代があった。実際にメーカーが販売する純正シャフトも「ベースは6Sから」というものが多かったし、フィッティングも「まずは6Sから」という人も多かった。50グラム台やSRにした時点で、「なんか負けた気がする」とか、「俺はそんな柔(やわ)いの使わないよ」と力量以上の見栄を張るゴルファーも多くいた。しかし、今回の調査を見る限り、女子プロの世界ではそんな神話は遠の昔に崩壊していたことに気づく。
調査した40人中、60グラム台のシャフトを使っていたのはたった6人で、その打ち分けは、穴井詩、櫻井心那、渡邉彩香といったハードヒッターが並ぶ(さすがに70グラム台はいなかった)。一方で、50グラム台は40人中34人と圧倒的なシェアを誇った。それにしてもなぜ50グラム台が主流になったのか。
まずひとつ考えられるのが、「スピードアップ」だ。スイングの安定感がある女子プロ達にとって、シャフト重量を軽くすることでHSのアップが可能になる。純粋に自分が使っているシャフトを重くすれば、スイング軌道は安定するがスピードは出ない。一方でシャフトを軽くすれば、軌道はブレやすくなるがスピードは出せる。つまりHSが40~43m/sの女子プロにとって、50グラム台の重さこそ、スピードと安定感の絶妙な重量帯なのだろう。特に現在の10~20代の選手は、アマチュア時代から50グラムで育ってきており、今でもスペックの基準にしているプロが多いようだ。
シャフトメーカーに聞くと、新しいシャフトをテストする際は、使用中のモデルと同じ重量帯、フレックス、長さで行うことが基本という。つまり最初は「5S」ないし、「5X」からテストを始めることが通例。HSでは、女子プロとアマチュアのボリュームゾーンはほぼ同じのため、我々も「6S」にこだわっていては、トレンドについていけない
フィッティングスタジオの関係者に話を聞くと、メーカーのカスタムシャフトも50グラム台への関心が高まっていて、リシャフトのメイン重量帯は50グラム台に移行しつつあるという。HSが速い人、重いシャフトに慣れている人を除いて、50グラム台は人気が出てきているようだ。未経験の方は一度試してみるといいだろう。
硬さは「S」が主流 パワーヒッターは「X」
続いて硬さの傾向をみると、40人中「S」が最多の29人、「SR」が5人、「R」が4人、そして「X」が2人という打ち分けになった。先ほどの重さの話と総合すると、やはり「5S」が今の女子プロのトレンドと言え、「5S」の組み合わせが定番化しているのだろう。
シャフトの「硬さ」に関しては、どちらかというとインパクトの安定感(ミート率)を基準に選んでいると思われる。硬い方がミート率は上がるが、硬すぎるとパワーがないと振れなくなる。一方で柔らかいとミート率は下がるがタイミングが合えば飛ばせる。つまり、ミート率が下がらない範囲で振り切れる硬さということで、女子プロの中では「S」が人気なのだろう。となると、振り切れるパワーがあれば「X」の選択肢も考えられ、実際に飛ばし屋の神谷そらは「5X」をチョイスしている。神谷が使うヤマハの新作「RMX VD/M」は、ロフト角10度にしてヘッドはある程度のやさしさを出し、シャフトは藤倉コンポジット「VENTUS BLACK」の「X」というハードスペックにしてバランスを取る。HSに自信のある読者諸兄は「5X」も一考していただきたい。もう一人の「X」シャフトは、こちらもハードヒッターの渡邉彩香。重量も60グラム台というハード仕様だ。持ち球がフェード系なので、叩ける「重硬シャフト」は扱いやすいのではと推測される。
長さの主流派45インチ前後
続いて長さ。長さに関してはある程度想像つくと思うが、長い方がヘッドスピードが出るもののミート率は落ちる。一方で短いとスピードは出ないが、ミート率は上がる。扱いこなせるのであれば、長い方が飛ばせるというわけだ。ただし、2022年よりプロゴルフ及びトップアマチュアの公式競技では、パターを除いたクラブの長さが46インチ以下にルールで制限された。原英莉花がルール規制前に46.5インチを使用していたのは覚えている方もいるかもしれないが、ルール変更後、今は46インチとルール限界の長さにしている。彼女は長さを短くするときに、「ドライバー選びに悩んだ」とコメントしていたが、やはり長さのアジャストは簡単にはいかないのだろう(USTマミヤ「The ATTAS V2」5Sをチョイス)。
調査の結果を見ると原のような46インチは特例で、ほとんどの選手は44.75~45.25インチの長さに収まっていた。45インチ前後が「ミート率が落ちない最大の長さ」なのだろう。そう考えると、46インチを使いこなす原の技術力の高さには頭が下がる。大手シャフトメーカーのフィッターに話を聞くと、理屈上は長くすればするほどHSは上がるが、実際にクラブを長くしてHSが速くなったアマチュアはほとんどいないそうだ。実際にボールスピードが上がり、飛距離アップする人は10%に満たないとのこと。長いものを速く振るにはコツもいるようで、長いと単純にミート率もダウンするので、アマチュアにとっては短い方が無難かもしれない。
ヘッドは低スピン×シャフトはやさしめ傾向?
昨年の「日本女子オープン」で優勝した原英莉花と、「TOTOジャパンクラシック」で優勝した稲見萌寧にはある共通点があった。共にシャフトはニュートラルでクセのないUSTマミヤ「The ATTAS V2」に、ヘッドは低スピンヘッドの「パラダイムツアー」(原英莉花)と「ステルス2プラス」(稲見萌寧)の組み合わせ(稲見は昨秋時点。現在は低スピンヘッドのQi10LSに変更しシャフトは継続)。パラダイムツアーもステルス2プラスも低スピンヘッドの中では若干マイルドではあるが、そこに「The ATTAS V2」を組み合わせることで、スピン量を若干増やし、操作性アップを狙っていると推測できる。低スピンヘッドにハードすぎないシャフトの組み合わせ、強い選手のセッティングは参考になる。「パラダイム◆◆◆S」の低スピンヘッドに、先中調子ながら先端が走りすぎない藤倉コンポジット 「VENTUS TR RED」を組み合わせる上田桃子も似たような感じだ。
一方で、コントロール性が高くてつかまりのいいスリクソン「ZX5 Mk II」に、つかまり過ぎを抑えフェードが打ちやすい藤倉コンポジット「SPEEDER NX GREEN」を合わせて“叩ける仕様”にした山下美夢有。こちらはヘッドはやさしめ、シャフトは低スピン傾向で、原や稲見とは逆パターンだ。いずれにしても、低スピン×低スピンというのは穴井詩のみ。「エピック フラッシュ サブゼロ ◆◆」という低スピンヘッドに、三菱ケミカル「TENSEI CKプロ オレンジ」という低スピンシャフトを組み合わせている(しかもロフト8.5度!)。我々アマチュアは、ヘッド、シャフトのどちらかはスピンが入るモデルを選んだほうが無難だろう。
プロゴルファーは納得して気に入ったシャフトを長く使う傾向があり、シーズン中に変更することは希少。特に女子プロは、シャフト選びに関してはヘッドよりも慎重といえる。中には鈴木愛のように、メーカー純正シャフトを気に入って長く使う選手もいる。ヘッドとの相性を考えると、純正シャフトほど強いものはないだろう。我々アマチュアも、最新シャフトにこだわるよりも、タイミングの取りやすさを重視し、その中で重さ、硬さ、長さも妥協しないことが大切。とりあえず「60S」と決めつけず、試打して長く使える一本を見つけよう。(文・田島基晴)
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