「純正」「カスタム」いつから曖昧に!? “吊るし”シャフトの現在地 今さら聞けない最新事情(前編)
近年、シャフト選びの基準は変化している。かつては、初級者はヘッドとシャフトをセット(完成品)として店舗の棚に並ぶ“吊るし”と呼ばれる「純正(オリジナル)シャフト」、中上級者はアフターマーケットで販売される「カスタムシャフト」を選ぶという、明確な線引きがあった。だが、現在はその境界は曖昧になり、一部では「違いが分かりにくい…」という声も聞かれるほど。では現在のラインアップはどう変わり、現在地はどこにあるのか――。まずはその実情を深掘りする。(前編/全2回)
2026年・最新モデルに見る「純正シャフト」のいま
現状を把握するため、ことし発売された最新ドライバー事情から見ていこう。
まずは、テーラーメイドから。2026年モデル「Qi4D」シリーズは、三菱ケミカル社との共同開発で生まれた「REAX」シャフトを純正ラインアップに採用している。スイング中のフェース開閉量に応じて特性を分けた「REAX High Rotation(HR)Red」「REAX Mid Rotation(MR)Blue」「REAX Low Rotation(LR)White」を用意。先端が動きやすくフェース開閉が多いゴルファー向けの「HR」、中間的な特性を持つ「MR」、タメが強いアスリート向けの「LR」と、従来にはない細かなフィッティング要素で幅広いユーザーに対応する構成となっている。
キャロウェイ「QUANTUM」シリーズは、「ATHREMAX 50」「TENSEI GRAY 60 for Callaway」「SPEEDER NX GOLD 50」「TOUR AD FI 5」の4種類を展開。ピン「G440 K」シリーズも、「ALTA J CB BLUE」に加えて「PING TOUR 2.0 CHROME」「PING TOUR 2.0 BLACK」「SPEEDER NX GREY」を用意するなど、幅広いゴルファーに向けた選択肢を揃えている。各社とも従来の“万人向けの1本”ではなく、ヘッド性能やスイング特性に合わせて細分化を進めている状態だ。
こちらのラインアップをあえて区分けするなら、“標準”と“標準カスタム”ということになるだろう。
“標準”は、オリジナルのネーミングを付けたモデルと、ブランド名の後に「for 〇〇」とメーカー名が入ったモデル。“標準カスタム”は、シャフトメーカーの人気ブランドが“吊るし”の状態で選べるモデル。キャロウェイでいうと、「ATHREMAX 50」」「TENSEI GRAY 60 for Callaway」は“標準”、「SPEEDER NX GOLD 50」「TOUR AD FI 5」は“標準カスタム”ということになる。
多くのツアープロからも支持を集めるクラブフィッター・吉田智(よしだ・さとし)氏によると、「不明瞭化した現状をつくったのは、この混在が要因ではないか」と主張する。
分岐点はシャフトブランドが純正ラインアップされた2017年
「今から約10年前に、クラブメーカー各社が、純正シャフトに『スピーダー』『ツアーAD』『フブキ』といった人気ブランドのシャフト名をそのまま冠にしたモデルをラインアップさせました。クラブメーカーは、当時人気の高かったシャフトブランドの認知と信頼性を買い、それまでも共同開発はしていましたが、大々的に純正のラインアップに取り入れたのです」
テーラーメイドでいうと、それまで「TM1-〇〇」といった名称のものだけであった形式から、2017年発売「M1 440 ドライバー」「M1 460 ドライバー」で初めて「ツアーAD TP」「Speeder 661 EVOLUTION III」「ディアマナ BF 60」「ATTAS PUNCH 6」が仲間入り。キャロウェイもヘッド名を含むネーム単体の形式から、同年発売の「GBB EPIC STAR ドライバー」に、「Speeder EVOLUTION for GBB」「Speeder Evolution III (569/661)」「ツアーAD TP-5」「フブキ V50」がラインアップとして並んだ。
クラブにおけるメーカー同士の共同開発は、1970年代カーボンシャフトの登場にさかのぼる。
金属加工が主だったクラブメーカーにとって、カーボンは異分野の高度技術を要したため、化学メーカーや繊維メーカー(三菱ケミカル、東レ、フジクラなど)との協力が不可欠となった。90年代にチタン素材が導入されると、ヘッドが急激に大型化し、大きなヘッドを効率よく振るために長尺&軽量で、しかもねじれ(トルク)を制御する専用シャフトが必要に。設計段階からシャフトメーカーとデータや知見を共有するスタイルが確立していったのは、この頃である。
「Powered by Fujikura」「Designed by Mitsubishi」といった表記が増えだし、シャフトメーカー自体のブランド力が高まったのが、2000年代以降。消費者がシャフトの質を重視するようになったため、共同開発であることを前面に打ち出す戦略が一般化した。2010年代には、ついにブランド名がそのままラインアップに並び始め、それが現在の主流形態として定着していった。
不明瞭化によって生じた“同じ名称なのに中身が違う”問題
純正とカスタムの境界が曖昧になったことで生じた問題。それは、「元々のシャフトブランドの認知と実態のズレが生じたことです」と吉田氏。「『for 〇〇』の標準シャフトが販売されたことで、繊細な挙動に分のあるアフターマーケットのカスタムシャフトとネーミングが同じでも、中身が別設計というケースが増えました」
「それ以前の定義として、『このブランドだからこういう特性』『このロゴが入っているから同じ性能』という判断が通用しにくくなりました。実際には、同じ名称でも重量配分や剛性設計、トルク設定は異なり、振り心地や弾道は大きく変わる。もちろん、純正シャフトの性能自体は年々向上しており、多くのゴルファーにとって十分に高性能な領域に達していますが、アフターマーケット品のしなり戻りの一貫性や細かな挙動には、まだまだ違いが存在します」
「純正シャフト」の歴史を振り返ることで、その進化の流れと現在抱える課題が見えてきた。同じ名前を冠にしていても、振り心地や弾道、ミスへの強さには差が生まれている――。では実際に、純正とカスタムではどれほど性能差があるのか。次回は、最新ドライバーを用いて弾道データを計測。飛距離やスピン量、つかまり具合を比較しながら、“今どきの純正シャフト”のリアルに迫る。(編集部・内田佳)
吉田智(よしだ・さとし) プロフィール
「PREMIUM GOLF STUDIO(プレミアムゴルフスタジオ)代官山」を主催。長年積み重ねた経験と的確な分析力で、成田美寿々をはじめ多くのトッププロから厚い信頼を得るクラブフィッター。カリスマフィッターMr.吉田としてYouTube活動をメインに、数多くのゴルフ誌や関連のテレビ番組にも出演中。