マッスルとキャビティは「平成」30年間でどう進化したのか?
平成元年アイアンと令和元年アイアンを試打検証
新製品が発売されるたびに、大きな進化を遂げてきたゴルフクラブ。この特集では、31年前の平成元年に人気だったモデルと最新の令和元年モデルを比較する。今回のテーマは「アイアン」。マッスルバックとフルキャビティをトラックマンを使用して、カテゴリー別で比較してみた。
【マッスル比較】 無駄な進化は必要なし!?
マッスルバックの比較検証では、平成元年モデルが当時日本のゴルフ界を牽引していた尾崎将司がブリヂストンスポーツと共同開発した「ジャンボMTN III(リミテッドエディション)アイアン」。最新モデルは、8月に発売予定のピン「ブループリント アイアン」で検証。試打者は自身も長年マッスルとキャビティを両方使用してきた鹿島田明宏プロにお願いした。
ロフト角は「ジャンボMTN III」が36度「ブループリント」が34度(ともに7番)と2度も違っているが、結果的に弾道やスピン量はあまり大きな差はなかった。「ブループリント」はあえて伝統のマッスルバックがもつマニュアル感を表現しているモデルであり、「MTN III」との違いが出ないのは当然といえば当然なのだが…。
「構えた時の見え方(形状)で、『ブループリント』は丸みを帯びていて安心感がある印象を持ちましたが、打った時のやさしさは『MTN III』と何ら変わらない印象でした。シャフトやグリップの違いで多少振りやすかったり、ハードに感じたりはあると思いますが、同じグリップで同じシャフトにした場合の機能性はほとんど変わらないでしょう。他のブランドのマッスルにしても同様だと思います」(鹿島田)
【キャビティ比較】アイアンのあり方に劇的変化!?
続いてキャビティバックアイアンの比較では、こちらも30年前の名器と言えるピン「アイ2」アイアンと、令和時代の代表として同じピンの「G410」アイアンで比較した。
驚いた点は、ピン「アイ2」のバックスピン量。マッスルバックを超える8000rpm超え。バックフェースデザインやグースネックから受ける印象は、先進的なオートマチックアイアンだが、弾道は極めてマニュアル的で、ボールを左右に曲げたり、高さをコントロールしやすいといえる。実はここにこそ、ピン「アイ2」の時代と令和最新のキャビティの間に、大きな差異があるのだ。
「ピン『アイ2』はグースネックでつかまりがよく、キャビティのぶんミスにも強いです。マッスルバックを打った後だと、やはりかなりオートマチックというかクラブに仕事をしてもらっている感じがします。しかし、出球はおとなしいというか、バックスピン量が多めでマッスルに近い感じ。逆に最新のピン『G410』アイアンは初速が速く、アイアンというよりユーティリティ寄りだなと思いました。バックスピン量が少なめで高さが出る。一言でいうと、飛ぶ要素満載のアイアンだと思います」(鹿島田)
「G410」は「アイ2」と比べて、バックスピン量は約1000rpmも少ない。決定的なのはボール初速が2.5m/sも違う点。ちなみに「G410」(7番)のロフト角は30度だが、対する「アイ2」(7番)は36度。驚くことにマッスル比較で検証した「ジャンボMTN III」と同じ設定なのだ。ここに昭和から平成初期までの当時のゴルファーやメーカーが持っていた“アイアン観”が表れているといえる。
30年前はマッスルもキャビティも同じロフト角だった…
キャビティはミスヒットしても芯で打った時と同じような弾道を生み出すために開発されたもので、決してボールを遠くに飛ばすための技術ではなかったのである。平成に入りメタルウッドの大型化、フェースの高反発化が進むなか、アイアンにも“飛距離アップ”が求められるようになっていった経緯が、超ストロングロフト化した令和の“飛びキャビティ”につながっているといえそうだ。
「アイ2」と「G410」では6度もロフト角が違っているのに、打ち出し角は約1度しか変わっていない。ロフトを立てても、深・低重心設計を極め、シャフトでもレベルスイングを助け、打ち出し角度が上がるようになっていることが分かる。まさにこれがアイアンの設計技術の進化なのである。
アイアンでも遠くに飛ばしたい? それならば迷うことなく最新キャビティを。最新マッスルを買っても、飛ばしの願いはかなわない。
取材協力:オーク・ヒルズカントリークラブ
鹿島田明宏(かしまだあきひろ) プロフィール
1965年生まれ、東京都出身。東日本ジュニア4連覇、全日本シングルプレーヤーズ選手権優勝。日大ゴルフ部で主将を務め、その後PGAプロテスト合格。初心者でも明確で分かりやすい定評のあるレッスン、経験豊富なギア知識で多くのゴルフ誌で活躍中。
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