中古市場ではお高め?「カッコよくてやさしい」知られざる中空アイアンの世界
見た目は子ども、頭脳は大人…のセリフで知られるのは、かの名探偵。ゴルフクラブにも、何も薬を飲まされたわけではないが、外見と内面のギャップが大きいものがある。見た目はマッスルバックでも、打てばやさしい中空アイアンが昨今のトレンドだ。歴史をひもとき、名器を中古市場から紹介しよう。
「中空アイアン」実は昔からありました
中空アイアンとは、バックフェースをくり抜いて周辺部に重量を配置したキャビティバックにフタをしたものである。やさしい構造に加え、スッキリとしたマッスルバックアイアンのような見た目も人気だが、誕生は意外と古い。
ピン社の創業者カーステン・ソルンハイムが試作を重ね、ピン「アイ」を経て、ピン「アイ2」を発売したのは1982年。プロ・アマを問わず10年に渡って人気を博した。とはいえ当時はマッスルバックタイプが主流で、テーラーメイドが1992年に発売した「ICW11」(ICWはインナーキャビティウエーティングの略)という全番手中空構造のアイアンもヒットには至らなかった。
元祖アイアン型ユーティリティと思われている方も多い1999年発売のフォーティーン「HI858」は実は2番からSWまでそろうアイアンセットだった。2番から9番までが中空構造。その2番、3番を宮里優作やアーニー・エルス(南アフリカ)らが使った。
その後、プロギアが2001年から2005年にかけて中空アイアンを積極的に発売し、「TR-X910」(2003年)というスマッシュヒットを飛ばすものの、再びキャビティ全盛時代となる。流れを変えたのが2015年発売のタイトリスト「716 T-MB」。アダム・スコット(オーストラリア)らトップ選手がロングアイアンを愛用した。
中空アイアンブームを先導したのはどこのメーカー?
重心深度が深く、慣性モーメントを大きくできる中空アイアンは当時、やさしい反面、弾き感の強い打音と打感を嫌う人が多かった。そこで2014年に設立されたPXGは高価格帯で「0311」(2016年)を発売。空洞部分に樹脂を入れることで、打音、打感の改善とボール初速のアップを実現し、PGAツアー選手や成田美寿々が使用した。
2017年には「P790」(2017年)を発売したテーラーメイドを、PXGが特許侵害による訴訟を起こすなど、別の意味でも話題に。元祖のピンも「G700」(2018年)を発売し、中空構造のデメリットを改善したことで一気にトレンドになった。
中空がここまで増えた理由は?
中空アイアンはキャビティバックにフタをすることでデザインの統一感を出しながら、“中身”で番手ごとに最適な重心設計にできることがメリット。問題だった打感と打音も、樹脂や比重の軽い金属を入れたりすることで改善した。溶接技術も上がったことで、ロフト角やライ角を調整できる素材もある。ミスに強く、カッコイイ中空アイアンはここ5年間で著しく進化を遂げている。
まさにマッスルバックと見間違えそうなのがミズノ「ミズノプロ245」(2023年)だ。軟鉄鍛造にこだわらず4番から8番まではクロモリ鋼のフェースで反発を高め、タングステンとステンレスで低重心化+重心の深さを狙った。9番からGWは、軟鉄鍛造ボディにステンレスをプラスし打感も抜群。番手ごとに用途を見極めた構造は、思わず攻めていると感心してしまう。残念ながらまだ在庫は少ないが、7本セットを11万円台で見つけることができた。
プロ使用モデルにして、飛距離も寛容性も十分なのがテーラーメイド「P790」(2023年)。2017年から4代目となる最新モデルは打感が確実に向上した。スッキリしたデザインも魅力。5本セットで10万円前後から見つかる。
最後はタイトリスト「T200」(2023年)はいかがだろう?アスリートモデルの「T100」、「T150」とブレード長は同じでソール幅は広めのヘッド。5番から7番までバネ鋼のフェースを採用し、8番以下は軟鉄フェースと凝っている。ロフト角も7番で30.5度と今どき。硬派でカッコよく、そしてもちろんやさしい。6本セットが10万前後で見つかる。
お手頃価格でオススメの中空アイアンは?
最新モデルはカッコいいけど、お値段に閉口してしまう読者の声が聞こえてきそうなので、お手頃モデルを紹介しよう。中空と言えば、フォーティーンが発売した「IF-700 FORGED」(2020年)を忘れてはならない。美しいヘッド形状は一見キャビティに見えるほどで、反発の高いフェースを軟鉄鍛造ボディにプラズマ溶接している。ボールがフェースに乗るような打感の良さが魅力だ。6本セットが5万円前後で見つかるだろう。
オノフ 「FORGED KURO」(2019年)は、マッスルバックで難しそうな見た目の予想を裏切るやさしさが魅力。フェースには特殊なバネ鋼を使っているので打音は高めだが、打感はやわらかい。6本セットが6万円前後で見つかるだろう。先程紹介した「716T-MB」も価格的にオススメできる。7番で33度とイマドキのアイアンとしてはロフト角が大きいが、見つかれば6本で4万前後が相場だ。
カッコいい中空アイアンは、人気のあるモデルが多く価格も高騰している。しかし、アイアンは長く使うと、それぞれのゴルファーの距離感が育ち、安心感も生まれる。人気モデルは買い取り価格も安定している。人気のモデルを購入するか? 試しに手頃なモデルを買ってみるか? 以前紹介したようにマッスルバックモデルと番手ごとで組み合わせて、コンボアイアン化を目指すのも面白い。たくさん妄想して、自分なりの正解を突き詰めてみよう。(文・田島基晴)
田島基晴 プロフィール
1963年生まれ。ゴルフギア好きが高じて、地元広島に中古ショップ「レプトン」のゴルフ部門を設立。現在は店舗で得たギア知識を活かし、ゴルフライターとして活躍。YouTube動画の企画編集やブログ執筆など活動は多岐にわたる。
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