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全米で話題「ショートゲームシェフ」のレッスンに潜入取材 “バニラショット”とは?/前編

日本ではまだ馴染みがないが、海外ではアプローチ専門のコーチがいて、トッププレーヤーからアマチュアまでを幅広く教えている。その中でも、「ショートゲームシェフ」(@shortgamechef)の名前でSNSでも人気を博している有名コーチが、パーカー・マクラクリンだ。45歳のマクラクリンはかつてPGAツアーのシード選手として活躍し、優勝は1回。当時からショートゲームのうまさには定評があり、コーチとなってからはコリン・モリカワを始め、数多くのトッププレーヤーを指導している。昨年末、海外のトップコーチなどを招聘する「KEN5.GOLF」のイベントでマクラクリンが来日。日本のトップコーチたちを相手に、ほぼ丸1日レクチャーを行うセミナーが開催された。その模様を、セミナーに参加したプロコーチの目澤秀憲永井直樹両氏の解説を交えてお伝えしていく。

アプローチはまず2つのカテゴリーに分ける

セミナーはまず、アプローチを2種類にカテゴリー分けするところから始まった。

「第1のファミリー(カテゴリー)は、パター、バンプエンドラン(あまり上げずに大部分を転がすショット)、ピッチショット(上げて転がすショット)で、第2のファミリーはバンカーショット、ラフからのショット、それにフロップショット(ロブショット)となります。第1のファミリーは手首をほとんど使わずに、フォローで大きく体(胸)を回して打っていきます。第2のファミリーはより大きな筋肉を使う必要があり、手首のヒンジとリヒンジ(コックとリリース)を使う打ち方です」(マクラクリン)

これについて目澤コーチは、「ショートゲームとフルスイングはそもそも打ち方のメカニズムが明確に違うという教え方は、私自身は過去にTPI(Titleist Performance Institute/スイングに関する人体機能の研究を行う教育機関)でしか聞いたことがないですが、ショートゲームがフルスイングの縮小版と考えてしまうと調子が下がったときに逃げ場がなくなってしまうので、とくにアマチュアは2つを分けて考えるほうがいいでしょう。さらに、パーカーのようにアプローチも2種類に分けることで、ひとつがダメでももう1種類あると考えると気持ちが楽になりますから、ショートゲームが苦手な人にはとくに参考にしてほしい考え方だと思います」という。

セッションは続いて、マクラクリンが最もベーシックだと考えるドリルの説明に移った。

「このドリルは、まずグリーンエッジにボールを置き、そこから約1歩ずつ距離を遠くしながらさらに3つくらいボールを置いていきます。グリーンに近い順に5番アイアン、7番アイアン、9番アイアンを使って同じカップに向けて順番に打っていき、いちばん遠いボールはサンドウェッジを使って打ちます。5番アイアンで打つ場合は、いかにボールをソフトに出すかということが重要です。そのため、1.手元を上げてハンドアップにする、2.グリップをよりパーム(手のひら)で握る、3.ボールに近づいて立つ、などの工夫が必要かもしれません。あるいは、パターと同じ構え、同じグリップにするとか、最近ツアーで流行しているクロスハンドでのチップも有効でしょう。パターのように握ると、ボールを『ヒット』するのではなく、『ストローク』するのだと、脳をだますことができるので、ソフトなボールが出やすくなります。

このドリルでは、グリーンに近いボールほど強く打ちすぎるミスが出やすく、遠いボールほどショートするミスが出やすくなります。いちばん遠いボールをサンドウェッジで打つ際には、フォローで大きく胸郭(上体)を回すことで、ソフトな出球と必要な飛距離を両立させることができます。ショートしそうだからと、手首のヒンジを多く使ったり、左への体重移動を強くしたりすると出球の勢いが強くなりすぎてしまいます」(マクラクリン)

目澤コーチによると、「5番アイアンでアプローチをしたことがある人は少ないかもしれませんが、飛ぶクラブを使って飛距離を引き算していくやり方は、腕をスローダウンさせつつヘッドは加速させるというアプローチの基本を学ぶにはいい練習だと思います。とくに、これから海外を目指すジュニアゴルファーには絶対に必要な練習じゃないでしょうか」とのこと。

また、永井コーチは、「日本で昔使われていた、5番アイアン(などの長いクラブ)のアプローチは、転がらない高麗グリーンに対してボールを強く出すものでしたから、それとはまったく違います。パーカーさんがいう1~3のような、ボールを飛ばさない、出球をソフトにするやり方というのは、速いグリーンになればなるほど必須となる技術と言えます。サンドウェッジを使ったベーシックな打ち方、パーカーさんが言うところの『バニラショット』は、アマチュアにも真似しやすく、ミスのリスクが少ない打ち方だと思います」という。

「バニラ」(vanilla)は、口語英語で「普通の」、「(スタンダードすぎて)つまらない」という意味がある。マクラクリンの「バニラショット」とは、ボールの真上に立ち(重心位置とボール位置を合わせる)、ほぼ胸の回転だけで打っていく打ち方のこと。体重移動を極力抑え、手首のヒンジも最小限にするのがコツ。

「グッドプレーヤーほど、ヘッドスピードは速く、ボールはゆっくり飛び出していく」とマクラクリンは言うが、それを実現するための最も基本となる打ち方だ。

続いてプレッシャーのかかった実戦練習

続くセッションは、少し距離のあるアプローチのドリル。やり方は、ピンまで20ヤードの地点から5ヤードずつ、50ヤードの地点までボールを置き、近いところから順に「1球ずつ」打っていく。50ヤードまできたら、今度は逆にグリーンに近づきながら、やはり「1球ずつ」打つというもの。1球ずつ打つのは、本番でのプレッシャーを再現するため。

目澤コーチは、「プロでも練習ラウンドでは、たとえば3球続けて同じところから打ってしまうことが多いです。1球で課題をクリアしなければいけないというのは、なかなかの緊張感で、なおかつ普段の練習でも割と簡単に採り入れることができるやり方だと思います」という。このドリルでは、1球ごとにターゲット(マクラクリンはグリーンに飛球線と直角に棒を置き、それをターゲットとする)から何ヤードのところにボールが「止まった」か記録する。

マクラクリンは、「ボクの生徒には4~6フィート(約120~180センチ)のレンジに、すべてのボールが止まるのを想定した距離感で打つように言っています。実際にサム・バーンズは、ほとんど2ヤード(6フィート)以内に止めることができるので、そうなると50ヤードからの最長パットが6フィートということになり、これはスコアメークの上ではかなり有効と言えるでしょう」という。

永井コーチは、このセミナーの受講後、自分自身の生徒(アマチュア)に対して、このドリルを実際に試してもらったという。その結果、「ミート率が高い人(上級者)ほど、20~30ヤードくらいの近い距離で想定より飛んでしまうミスが多いのですが、飛ばない打ち方を説明しつつ、このドリルをやると、飛ぶミスを(より安全な)飛ばないミスにできることがわかりました。距離感についても、同じ人が週1回×4回、つまり1カ月くらいやるとかなり自分なりに調節できるという実感が得られると思います」とのことだ。

そしてセミナーは、第2のファミリーを中心としたセッションに入っていく。(取材・構成/服部謙二郎)

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