そこらのSUVとはワケが違う シトロエン「C5エアクロス」でセンスをチラ見せ/クルマはゴルフギアである #13
自身がホストを務めるラジオ番組においても、自動車業界のゲストを招いてクルマ談義を交わすこともある安東弘樹氏に、大人ゴルファーの“持ち物”としてのクルマを提案いただく本連載。車体価格や維持費だけでなく、所有し使うことでオーナーが豊かになれるクルマが選出条件だ。今回は、シトロエンのハイブリッドSUV「C5エアクロス」を強く推薦したくなったという。(構成/編集部・中島俊介)
個性的なデザインが光る
シトロエンについて、皆さんはどんな印象をお持ちでしょうか。あまり詳しくは知らないけれど、ちょっとクセのあるデザインのガイシャ…くらいのイメージの方も少なくないかもしれません。実は、前輪駆動方式を初めて本格的に量産化したり、本籍地フランスの大統領専用車に採用されたりと、開発力や信頼性は欧州において高く評価されているメーカーです。今はステランティスグループに属する一ブランドではありますが、独特のクルマ作りは健在です。
まずはデザイン。これはもう、シトロエンの伝統と言いますか、よくもまあこんなデザインで市販することを上層部が認めたなあと思うようなクルマが大半です。前述した大統領専用車の「C6」をご存じなければ、ぜひ調べてみてください。なんとも言い表しがたいデザインのクルマですので(笑)。
今回のC5エアクロスは流行のSUVタイプですが、凡百のSUVとは一線を画す外装を与えたのはさすがシトロエン。細部まで観賞価値の高いクルマです。日本メーカーのデザイナーさんがこのデザインを描いても、間違いなく採用されないでしょう。ある意味で、オーナーのセンスも問うようなクルマです。
独自のサスペンションとシートがもたらす乗り心地
シトロエンの特徴はデザインだけではなく、足回りも高く評価されています。かつては“絨毯の上を走っている”とまで形容されたシトロエンの乗り心地は通称「ハイドロ」と呼ばれるシステムがもたらしたもの。通常の金属バネとダンパーの代わりにエアとオイル、つまり気体と液体を使った機構です。この独創的な精神はC5エアクロスにも息づいており、従来のサスペンションに油圧クッションを加えた「PHC」(プログレッシブ・ハイドロ―リック・クッション)という独自のシステムを搭載しています。
これがもたらす乗り心地が実に不思議で、フニャフニャしていないけれど路面からの突き上げを上手にいなし、非常に快適なのです。「シトロエンは一体何を仕込んでいるんだ?」と、私は運転中に何度も思ってしまいました。日本のユーザーは、柔らかめのシートや柔らかめの足のクルマを、乗り心地が良いと判断する傾向がありますが、長距離を走ると腰が痛くなったり疲れがたまったりするのは実はこういうクルマです。短時間の試乗で乗り心地を判断する環境では致し方ないのかもしれませんが…。
フランス車の乗り心地はサスペンションだけがもたらすものではなく、シートも多大なる貢献をしています。C5エアクロスのシートにも工夫が詰まっており、「アドバンストコンフォートシート」というシートが前述のPHCと相まって疲れにくい走りを実現しています。シートとサスペンションによって体に伝わる振動を低減し、無意識下で生じる筋肉の緊張を緩和するとメーカーは謳いますが、私もこれは良いと思います。ゴルフの帰路、渋滞にはまったとしても疲労を和らげてくれそうです。同じ欧州車でも、ドイツ車に比べてシートのサイズが日本人の標準体型にフィットするのも美点です。
運転好きなら「Mモード」がおすすめ
サスペンションやシートもいいのですが、私が一番気に入ったのがパワーユニットとトランスミッションです。日本で言うところのストロングハイブリッド方式の動力機構に組み合わされるのは、1.2リッター3気筒ターボエンジン。スペックだけ見れば平凡なものですが、実にいい仕事をするのです。
ゆったり走っていても気が付いたら制限速度ギリギリまでスピードが乗っていたなんてこともあり、日本の速度域で不満はありません。強いて言うなら、新東名高速で時速100キロから120キロに加速した時にはさすがに少しもたつきましたが、それくらいのもの。高速でもリッター16キロ、渋滞のない一般道だと18キロは走る燃費も優秀です。
トランスミッションは6速DCT(ダブルクラッチトランスミッション)で、日本車に多く採用されているCVTとは一線を画す機構です。簡単に言うとマニュアルトランスミッションに近い機構で、速度とエンジン回転数によって自動的にシフトが選択されます。
AUTOモードで十分ではありますが、運転好きな私は終始Mモードに入れっぱなしで走りました。このクルマはMモードに入れると自動ではAUTOモードに切り替わりません。エンジン回転数が下がってきても自動的にはギアが変わらず、放っておくと挙動がガクガクします。これはクルマの制御がおかしいのではなく、マニュアルの運転を知るドライバー向けの設えなのです。
日本のユーザーの多くは無段変速機のCVTに慣れていますが、MTやダイレクトに反応するATに慣れているドライバーは、アクセルを踏み込んでエンジン回転数が上がっても、遅れて加速し始めるCVTの感覚に違和感を覚えることもあるでしょう。運転に対する文化や考え方の違いを理解するのも、輸入車を所有する知的な楽しみだと私は思います。
今回はかなり褒め過ぎたかもしれませんが、ウソ偽りなく本当に良いと思いました。これが580万円で買えるというのは“高コスパ”間違いなしです。SUVという世界的な流れに乗りつつも、独自の個性を失わないシトロエンのクルマを多くの人に味わっていただければと思います。
<Specification>
C5エアクロス MAX HYBRID
●全長×全幅×全高:4,655mm×1,905mm×1,710mm
●乗車定員:5名
●車両重量:1,630kg
●駆動方式:FWD
●WLTCモード燃費:19.4km/L
●エンジン:1.2L 直列3気筒ターボ
-最高出力:136PS/5,500rpm
-最大トルク:230Nm/1,750rpm
●モーター
-最高出力:15kW/4,264rpm
-最大トルク:51Nm/750-2,499rpm
●車両本体価格:5,850,000円(税込)
イラスト:酒井恵理
写真:篠原晃一
取材協力:上総モナークカントリークラブ
安東弘樹(あんどう ひろき) プロフィール
元TBSアナウンサーにして大のクルマ好き、いや“クルマ狂”。50台ほどのクルマを乗り継ぎ、TBS勤務時代から自動車ローンが途切れたことがないという。独自の視点から切り込む自動車関連のコラムを各種媒体で連載中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で日本自動車ジャーナリスト協会会員。