スパイダー研究 “スラントネック”との相性がいい理由とは?/オグさんのPUTTER偏愛日記#17
スパイダーの登場は2008年
今回は、言わずと知れた人気シリーズ、テーラーメイドの「スパイダー」です。2026年の最新モデル「ツアートーチド」シリーズから、私好みのモデルを借りてじっくり試打させてもらいました。
「トーチド(Torched)」とは“炙(あぶ)る”という意味で、ロリー・マキロイ(北アイルランド)が、構えた時の見た目を変えるために塗装を炙ったことに由来します。まったく、ひどいことをするもんですねぇ!!(笑) ただ、実物は、深みのあるブロンズカラーで落ち着いた雰囲気が漂い、大変カッコいいです!
スパイダーが登場したのは2008年。当時のパター情勢は小型化に向かっていました。2005年頃から始まったマレットモデルの大型化に対し、「やっぱり適度なサイズがイイよね」という揺り戻しが起きていた時期に、初代「ロッサ モンザ スパイダー AGSI+」が誕生しました。多くのプロが使用し、PGAツアーでの優勝者が出たことで一気に定着しました。プロの間で人気が出るとアマチュアも手にしやすいものですが、その独特なサイズと形状ゆえ、一般ゴルファーに浸透するには少し時間がかかったと記憶しています。
その後、ツアープロの要望で一回り小さくした「イッチィービッチィー」というモデルが誕生します。この頃からスパイダーのような大型マレットを“ネオマレット”と呼ぶようになり、新たなカテゴリーとして定着していきました。2008年のPGAツアーではブレード派が大半でしたが、現在ではマレット派が優勢です。スパイダーは時代を動かすきっかけを作った偉大なモデルであり、現代パターの“ど真ん中”として君臨しているのです。
なぜスパイダーはプロに人気なのか
なぜこれほどまでにネオマレットを使うツアープロが増えたのか? スパイダーシリーズ単体の性能の高さや、プロの意見を取り入れて止まることなく進化し続けているのが一番の理由でしょう。しかし、それだけではないと私は考えています。
分かりやすいのがメジャートーナメントでの傾向です。美しく整備されたグリーンで行われる「マスターズ」ではネオマレット派が多く、風が吹きつける過酷なコースが舞台の「全英オープン」ではブレード派が増えます。
この違いは、グリーンのコンディションや芝質に関係しています。密度が高くスムーズなグリーンではイレギュラーが少ないため、「狙ったラインへ意図したスピードで出すこと」がカギになります。打点ブレに強くオートマチックに振れるネオマレットの独壇場です。
反対に過酷な環境のコースでは芝の1本1本が強く密度も上がりにくいため、芝目が強くなります。どんなに整備しても転がりが弱くなった終盤にイレギュラーが起きやすいため、しっかりヒットしても転がりすぎないブレードタイプがマッチするのです。
つまり、ネオマレットを使うプロが増えたのは、その性能が生きる「密度の高い素晴らしいコンディションのグリーン」で戦うトーナメントが増えたから、とも推察できます。
30年ほど前のツアー映像では、肩をあまり使わず手首でパチンと打つシーンが目立ちます。20年ほど前からグリーン状況は良くなってきたそうですが、海外ツアーに詳しい方によると「テレビ中継されないローカル大会では、昔はまだまだボソボソのグリーンが存在した」とのこと。近年はそうしたコースも減ってきたということなのでしょう。
フェース開閉を少し使ってもストレート軌道で打てるネック
今回試打したのは「スパイダー ツアーX トーチド」「スパイダー トーチド トゥルーパス」「スパイダー ツアーX トーチド シングルサイトライン」の3モデル。すべてスモールスラントネックを選びました。私は、軌道はストレートでもヘッドは少し開閉させたい。その動きにぴったり合うのがスモールスラントです。
あくまで私個人の好みですが、ヘッドが重く重心が深いスパイダーは、適度な重心距離が生まれるスモールスラントとの相性が抜群だと感じています。ストローク中にヘッドがゆったりターンするため、落ち着いたテンポで振ると体の動きとリンクし、再現性が高まります。軌道をストレートにしたい方も扇状(アーク)に振りたい方も、「ヘッドを開閉させるイメージ」をお持ちならぜひスモールスラントを試してみてください。
ちなみにクランクネックはつかまりが良いので右へのミスが多い人に、ダブルベントは、フェースを開閉させずストレート軌道でまっすぐ振りたい人におすすめです。
<合う人>
センター軸 or 左軸 → どちらでも
ボール位置:センター or 左寄り → 左寄り
※上記3モデルがどういう人に合うかの目安です。詳細は下記記事も併せてご覧ください。
少しのミスヒットは問題にならない!
「スパイダー ツアー」「スパイダー ツアーX」は過去に何度も打っていますが、打点ミスへの強さには毎回感動させられます。少し芯を外したくらいでは転がりがほとんど変わらず、ボールを打ち出す方向だけに集中できます。
深みのある落ち着いたカラーは光の反射もなく、どんな光源下でもフェースの向きを正確に認識でき、構えた方向に自信を持って打ち出せます。
インサートには、従来から定評のあるサーリン(樹脂素材)とアルミニウムで構成された「ピュアロールインサート」を採用。下向き45度の溝がインパクト時のスリップを防ぎ、理想的な順回転を生み出してくれます。打感もほどよく柔らかく、タッチを合わせやすい。深い重心によるミスへの寛容性と転がりの安定感、さらに感触を出しやすいインサートの組み合わせ。結果がすべてのツアープロが愛用するのも納得の完成度です。
大型の「スパイダー ツアー トーチド」と、一回りコンパクトな「スパイダー ツアーX トーチド」を改めて打ち比べてみました。大型の「ツアー」は、よりミスに強くオートマチックな印象。ゆったりしたテンポを意識すると、再現性が高くブレないパッティングが可能です。
一方の「ツアーX」は、オートマチックさの中に程よい操作感が残っており、とっさの微調整を受け入れてくれる感覚があります。傾斜の強いショートパットなどで小細工をしたくなる私としては、こちらが好みですね!
アライメントの違いは「どちらがスッと目標に対して構えやすいか」で選んでOKです。視覚の捉え方は人それぞれ異なるので、自分の見え方を第一にして、最も違和感のないものを選んでください。
欧州では、スパイダーシリーズがパター全体の売り上げトップというデータもあるとか。いまや「ゴルフクラブのパター」と言えば、真っ先にスパイダーを思い浮かべるゴルファーも増えていることでしょう。
ネオマレットという新カテゴリーを切り拓いたスパイダーシリーズは、間違いなく一時代を築いた名器であり、これからもゴルフ界の覇権を握り続けていくことでしょう。
小倉勇人(おぐら・はやと) プロフィール
ゴルフショップ「リルガレージ」店長。クラフトマン、クラブフィッター、さらに雑誌やウェブ記事の編集・執筆業も行う、歌って踊れるゴルフライター。好きなクラブはパター、左利き/右打ち。愛称は「オグさん」。