ゴルフボールの都市伝説「同一メーカーのドライバーで打つのが最も飛ぶ」を検証
6メーカーのボール×ドライバー=36通りの飛距離を比較
「ボールとクラブのメーカーを揃えるといい」――。まことしやかにささやかれてきたギア界の都市伝説。良し悪しを決めるのはプレーヤー次第のため、その真実は知るよしもないが、最新クラブを開発する際に自社ボールでテストしているなら、きっと飛距離に関して相関関係が生まれるはず!? そんな疑問を抱いた編集部は、大手メーカー6社の組み合わせを試打し、ある検証を行った。
6×6通りの組み合わせを一挙に試打
検証を行ったのは、クラブとボールを発売している6メーカー。ドライバーはシリーズごとに性質が異なるため一概には言えないが、できるだけドローバイアスとロースピンに振り切ったモデルではなく、いわゆるスタンダードと位置付けられたものを選んだ(※サイズや形状の違い、慣性モーメントの大小に関してはご容赦を)。テーラーメイド「Qi10 ドライバー」、キャロウェイ「パラダイム Ai MAX ドライバー」、タイトリスト「GT2 ドライバー」、ダンロップ「スリクソン ZXi ドライバー」、ブリヂストン「B1ST ドライバー」、ミズノ「ST-X 230 ドライバー」。
試打者はHS45m/s前後の日下部光隆プロ。トラックマンで測定し、計5球の平均値を算出した。シャフトは公平を期すためtrpx「THE AIR」のフレックスSX(55g)長さ45.5インチ、ロフト角10.5度で統一した。
ボールはツアーモデルとされるスピン系で、前回のスピン系vsディスタンス系の実験で平均飛距離が最も出たモデル(例えばタイトリストはプロV1よりもプロV1x)を選択。テーラーメイドは「TP5x」、キャロウェイは「クロムツアー X」、ダンロップ「スリクソン Z-STAR XV」、ブリヂストン「ツアーB XS」、ミズノ「RB TOUR X」を用意した。
6社中3社が飛距離No.1 「予想外」なマッチング結果に
トータル飛距離の結果でいうと、6社中3社が飛距離1位という結果に。同一メーカー同士が最も飛ぶ説は50%の確率であることが分かった。
この確率が高いかどうか、さまざまな意見が飛び交いそうだが、試打に協力してくれた日下部プロの見解では、「実際に打ち比べてみて、同一メーカーの相性の良さは確実に実感しました」と回答。「飛ぶ飛ばないの条件は、微小な打ち出し角とミート率によるため、明確な答えは言い切れませんが、ここまで高確率に揃うことは偶然とも思えません。当初はもっとバラバラな結果を想像していたので、6社中3社は予想外でした」と驚いた表情を見せた。
■テーラーメイド 「低スピン×高スピン」の相乗バランス
では、一つひとつのヘッドで結果を見ていこう。まず、テーラーメイド部門「Qi10」のヘッドでは、同社「TP5x」が274.8ydとダンロップ「Z-STAR XV」に継ぐ2位の総距離に。スピン量は2631rpmと全社で一番多く出る特徴的な結果となった。
日下部プロの見解では、「最大飛距離を飛ばすには適正スピン量2200~2400rpmと考えると、テーラー×テーラーの同一メーカー組はやや多く出てしまっています。『Qi10』のヘッドは、パーシモン時代のドライバーの流れを感じるほどのディープ形状で、やや低スピン要素が高い印象。その半面『TP5x』の特性は、他社と比べて高弾道でスピン多め。少し難しい低スピンヘッド×高さが出やすいやさしいスピン多めボール。うまくそれぞれのメリットを生かして結果が出ているところは、バランスを考えた組み合わせなのかなと感じました」
■キャロウェイ 「メリハリのあるのボール」と相性◎
キャロウェイ部門では、マッチングとしてはピッタリ! 同社「クロムツアー X」が1位の飛距離となった。飛びの三原則(初速、打ち出し角、スピン量)ともに特化した結果はなかったにもかかわらず、トータルバランスとしての相性の良さが影響した模様。
「『パラダイム Ai スモーク MAX』のヘッドは、他社と比べるとやや弾きがおとなしく、飛距離性能よりコントロール性に優れている印象を受けます。結果的には同社『クロムツアー X』やブリヂストン『ツアーB XS』といったやわらかいボールとの相性の良さがランキングに表れていましたが、実はフィーリングでは弾き感強めのミズノ『RB TOUR X』が合っている気がしました。弾き感と食いつきのバランスが取れているボール(以下バランス型)より柔硬どちらかメリハリの効いたボールのほうが合っているのかもしれません」
■タイトリスト 「ややマイルドなボール」とGoodな組み合わせ
タイトリスト部門では、1~5位までトータル飛距離が全社276~277ydで、ほぼ拮抗する結果に。初速は66~67m/s台、打ち出し角は全社12~13度、スピン量も2200rpm前後と横一線。項目で見るとほとんどバラつきがなく、全社とも弾道の傾向が一緒という点はタイトリスト『GT2』特有。
「今回の試打で一番驚いたドライバーが『GT2』のヘッドでした。打感は決して硬くはないのに、スピン量は多くない全社2000rpm台前半で、低スピン性能に特化しています。打感はソリッドではないものの、ボールはマイルドな打感のテーラーメイド『TP5x』やキャロウェイ『クロムツアー X』との相性がいい。同社『プロV1x』は3位という結果でしたが、逆に『プロV1x』の優秀さは、どのクラブでも並がないところ。ツアープロの使用率が高い要因は、このあたりの汎用性にもうかがえる気がしました」
■ダンロップ 「バランス型ボール」とのマッチングがベスト
ダンロップ部門では、同社「Z-STAR XV」との組み合わせが、テーラーメイド「TP5x」と同じ距離で1位(タイ)に。全社初速は66~68m/sでほぼ一緒だが、打ち出し角が12度もあれば15度もあり、かなりバラバラなところが特徴的といえる。結果的には打ち出しの高さが出て、スピンが抑えられた2モデルが総距離No.1につながった。
「ヘッドはシャローで、見た目は球が上がりそうなすごくやさしいイメージを抱きます。やさしいけれど、決してスピンが出すぎるわけではなく適度なスピン量と弾道を生むヘッド。相性としては、バランス型ボールとのマッチングがベスト。スリクソン同士でNo.1も納得の結果です。打音が鋭く、シャープでソリッドな打感なので、マイルドな打感の『TP5x』『クロムツアー X』とも相性◎。特に、『TP5x』は自社ドライバーではスピン過多だったのに対し、『ZXi』との組み合わせでは低スピンなのが面白い結果といえます」
■ブリヂストン 同社ボールを含む「マイルド系ボール」と好相性
次はブリヂストン部門。全体的にスピン量は6社中4社が2000rpm台とかなり低めで、他社ヘッドよりかなり低スピン性能であることが分かる。同社「ツアーB XS」は、特に初速が68.2m/sと一番出ていたことが、総距離1位獲得に大きく影響したといえる。
「『B1ST』のヘッドは打感が硬くて弾きが強い系なので、ボールは硬めよりマイルドなほうが相性は良さそうです。マイルド系の『TP5x』『クロムツアー X』の打ち出し角は適正で、キャリーもよく出ています。10年以上前のブリヂストン(当時ツアーステージ)では食いつき感の強さが印象的でしたが、現行モデルではかなりソリッドな打感で高めの打音が印象的。やわらかい打感の同社『ツアーB XS』が飛んでいる結果もうなづけます。バランス型『プロV1x』『Z-STAR XV』は逆に食いつき過ぎてしまったのかもしれません」
■ミズノ 「タイト『GT』と同系統」結果は違えどボール相性は類似
ミズノ部門では、同社「RB TOUR X」が初速66.7m/sで2位、打ち出し角は11.4度と一番低く、スピン量は2308rpmと一番多い結果に。傾向的には、低めで速い球筋ではあるけれどスピンは多めという独特な特徴であることが分かる。そこが影響しているのか、総距離は4位にとどまった。
「ミズノ『ST-X 230』は、インパクトでのボールがフェースに乗っている時間が長く感じられるドライバーです。食いつき感は味わえますが、マイルドな打感というよりはやや弾きの強さを感じます。硬さはないけれど弾きが残るフィーリングは、タイトリスト『GT』シリーズに似た印象。今回の結果ではタイトリストと合致しないまでも、相性のいいボールは似た傾向にある気がしました。全体的にスピン量が少ない分、ハイロフトに設定し直せば全く違った総距離の数字になる予感がします」
「同一メーカーは“最も飛ぶ”とは言い切れないが “最もハズれない”」
最後に、専門的な立場からクラブ設計家の松尾好員(まつお・よしかず)氏に今回の結果を見せると、「ボールの開発に際して、各メーカーが長い伝統を持ち、ブランドごとにディンブルの個数や形状、大きさや深さ、またテスト方法や飛ばし方もまちまちなため、この都市伝説をひとりのテスターで実証することは難しい」ときっぱり。
また、「ドライバーの開発段階で同社ボールを使用しますが、発売時期も開発期間も異なるため、開発時は1~2個前のボールという可能性も高い」と、ヘッド開発時のテストボールとしての使用も曖昧と主張。ただ、その上で「同一メーカー同士で、大きく不一致だったケースがないことは断言できます」と見解をまとめた。
「あくまでも開発段階で何十万回テストを行っているなかで、大きくハズれるようなことはあってはならないからです。逆を言えば、飛び抜けて大飛びするマッチングも現れなかった。この6社中3社という結果は偶然性を否定できませんが、クラブとボールの特徴が根底では合っている、合わせていると言い換えられます。ですから、フィーリングの傾向を大きく外したくない人は、同一メーカーで揃えることをお勧めします。各メーカーの傾向や相性を計りたい人、特にドライバーを何度も買い替えてもボールだけは固定して使い続ける人は、今回の日下部プロのコメントを参考にクラブを選ぶと良いでしょう」
■ピン 「マイルドすぎないマイルドさ」が相性のカギを握る!?
最後に、今回のテストとは別に、ボール販売を行っていない人気メーカーの代表としてピン「G430 MAX ドライバー」も調査した。高慣性モーメントという特徴を有しているため、比較的にスピン量は今回の他社モデルより多いが、その中でも66.7m/sと一番初速が出ていたスリクソン「Z-STAR XV」が最も飛んだ。
「数値からも分かる通り、他社モデルと比べてスピンが多くて弾道は比較的に高め。一方でフェースに乗っかりすぎることもなく、打ち出し角は適正な気がします(全社13度台)。ダンロップ『Z-STAR』やタイトリスト『プロV1x』といったバランス型ボールとの相性が良く、マイルドすぎないマイルドさが『G430』との合致する条件なのかもしれません」(日下部)
今回の調査結果はいかがだったろうか。予想以上と驚いた人もいれば、予想通りと納得した人もいたのでは。あとは日下部プロのコメントを参考に、ヘッドとボールの相性を探ってみてほしい。信じるか信じないかはあなた次第――。(編集部・内田佳)
日下部光隆(くさかべ・みつたか) プロフィール
1988年「神奈川県アマ」、89、90年「朝日杯全日本学生」連覇などアマチュアタイトルを獲得。91年にプロテストに合格し、同年「マルマンオープン」でプロデビュー。95年「ペプシ宇部興産」、97年「カシオワールドオープン」、98年「日経カップ中村寅吉メモリアル」優勝。現在はレッスン活動に従事し、「WASSゴルフスタジオ」を主宰。
松尾好員(まつお・よしかず) プロフィール
神戸大学工学部卒業後、住友ゴム(ダンロップ)に入社し、クラブの設計開発に携わる。世界4大メジャーで最も多くの選手にクラブを提供した日本人クラブデザイナーとして知られる。現在ジャイロスポーツを主宰。