キャロウェイのAIフェースはやさしさのためにある
昨今話題のAI(人工知能)技術。その進化はとどまるところを知らない。ゴルフ界でAIをいち早く取り入れたのがキャロウェイゴルフだ。2019年にAIを採用したクラブを発売するなど、いまや業界では突出している。そして2024年、さらに進化したAI設計のクラブを発表した。同社のAIの系譜を追った。
■AIを前面に
人間の棋士をしのぐレベルとされる将棋AIは有名だが、ゴルフにおいては、AIが人間を助けてくれる。キャロウェイゴルフが世に送り出してきたAI設計クラブのことだ。
2023年ツアー部門でもナンバーワン勝率をマークした『パラダイム』の後継として、2024年の年初に新発表した『パラダイム Aiスモーク』は、キャロウェイのクラブで初めてAIの名前を採用した。
名称には、英語のスラングで「速さ」をイメージする「スモーク」が加わった。同社のパターブランド、オデッセイが昨年発売した『Ai-ONEパター』で先鞭をつけ、満を持して登場した「Ai」を冠したクラブである。
■ドライバーのAI試作は2017年から
キャロウェイゴルフのマーケティング担当者の説明によると、同社がAIを採用したのは2009年。スーパーコンピューターを導入し、それまで蓄えた技術などのデータを取り込んだ。初めてAIを使って実験を始めたのは2016年。ゴルフボールのインパクト時に起こる現象をAIでチェックして分析するというものだったという。同年、アイアンのフェースをAIで試作している。
2017年には、フェースの裏側に2本の柱「ジェイルブレイク」を搭載した『GBBエピック』を発売したが、「その裏で実は、ドライバーのフェースをAIでつくってどんな効果が出るか試作を開始。ボールスピードを上げる効果が出るフェースをつくっていた」と明かす。
そして、スーパーコンピューターのアップグレードを経て2019年、ゴルフ用具としては世界で初めてAI設計の「フラッシュフェース」を搭載した『エピック フラッシュ』を発売した。ドライバーのフェースは通常、中央が厚く、エッジの周囲が薄くなる形状を採用しているが、AIがボールスピードに注力して設計したフェースは、研究開発チームのメンバーをも驚かせる独特の形状だった。
■膨大なインプットデータと処理能力の進化
当初、AIにインプットしたデータはボール初速の最大化、耐久性、ルール適合といった要素だったが、スーパーコンピューターの処理能力向上、研究開発チームのレベルアップでチャレンジは加速した。
2020年発売の『マーベリック』に搭載されたフラッシュフェースはボールスピードだけでなく、打ち出し角の適正データを追加。2022年発売の『ローグST』のそれはゴルファーの打点傾向に加え、飛びの三要素であるスピン量、打ち出し角、ボール初速をAIの入力データに加えた。
さらに、着弾地点のブレ幅などを加えてAI設計されたフェースを搭載したのが2023年発売の『パラダイム』で、「やさしさと飛ばし」を両立させた。
「これまでのフラッシュフェースはロボットテストで仮想スイングのデータを入れていた。こういった傾向があるだろうというスイングデータ。条件としては、インパクトのときにスクエアのインパクトである、ということでした」(前出の担当者、以下同)
■リアルなスイングデータから100万以上のデータをインプット
その入力データが大きく変わった。『パラダイム Aiスモーク』の「Aiスマートフェース」はこれまでとは違い、“リアルなデータ”がAIにインプットされて、つくり上げられたことが最大の特徴だ。日本を含めた世界中にあるキャロウェイ フィッティング スタジオから収集された膨大なデータが生かされた。
データは、プロはもちろん、年齢や性別など関係なくすべて入っており、「スイングのパターンでいうと約25万スイング。当たった時のロフト角やライ角、ヘッドスピードの差などもあるので100万以上のデータになっている」
リアルなスイングデータとなると、いいショットもあればミスもある。フェースを開いたり閉じたり、人によって当たる部分も違う。「それがすべてアメリカのコンピューターにインプットされ、今までにないフェースがつくりあげられた」
■どこに当たってもフェアウェイへ
「人の手によるコード入力はパラダイムが3万行だったのに対し、今回は8万行に」。これが100万以上のスイングデータ解析と組み合わさってAIがつくりだしたフェースは、5万回に及ぶAIによるバーチャルテストを繰り返して、完成を見る。
リアルデータがプログラムされ、さらに「フェースの全面がトランポリンのように動いてくれる」という機能「マイクロディフレクション」も加わり、フェーステクノロジーは飛躍的に進化。これまでボールスピードを出すために搭載してきたジェイルブレイクは外すことに。これもAIが導き出した答えだった。
さて、この先、キャロウェイのAI技術はどこへ向かうのか。
「すべてのゴルファーが、さらにゴルフを楽しんでいただくために進化をしていきます。パターなどはAi-ONEで初めてAI設計を搭載したカテゴリーですし、まだAIの設計が入っていないカテゴリーもあります。すでに導入されているドライバーなどでも、さらに細かな部分にも進化する部分が残されています」
極論すれば、将来的には個々のゴルファーに合ったAIによるフェース設計も物理的には可能となる。