ピンも慣性モーメント1万超え「G430 MAX 10K」誕生
正直あっちの「10K」どう思った!? テーラーメイドvsピン お互いの見解は
2024年1月10日、午前11時にテーラーメイドが「Qi10 MAX ドライバー」を、4時間後にピンが「G430 MAX 10K ドライバー」を発表した。偶然ではあるものの、上下左右の合計慣性モーメント(以下MOI)値“10K”1万g・cm2超えを掲げた商品が同じタイミングで出そろったことになる。具体的に互いの名を出さないまでも、腹の底ではきっと気になっていたはず。そこで両社が互いをどこまで意識し、どのように受け止めたのかを、それぞれの会場で探ってみた。
『ぶっ飛び系10K』vs『10K飛(マントビ)』
テーラーメイドは“やさしさの新世界基準”と題し、『ぶっ飛び系10Kドライバー』というキャッチコピーを付けた。クラウンの面積を97%カーボンで構築することで、今までにないほどの余剰重量を生み、サイズを最大化させたヘッド形状と再配分した内部重量で、同社史上最大のMOIを実現させた。
一方のピンは、“G430には続きがある”と「G430」の派生モデルという位置付けで、その飛距離性能を『10K飛(マントビ)』とアピールした。8層のカーボンをクラウン部に採用することで、これまでにない軽量化を図り、既存の「G430 MAX」以上の投影面積を生み、徹底的な深低重心設計を構築。ブレずに飛ばせる性能を作り上げた。
テーラーメイドのプロダクト担当・高橋伸忠氏は、同日発表ということも把握していなかった様子で、「全く意識していないというとウソになりますが、特段興味を持って動向をチェックしてはいません」と余裕綽々(しゃくしゃく)。「他社の商品を比較して、他がこう来たからウチはこうしようという話にはなりませんよ(笑)。たぶん他社も比較分析するのは競合商品ではなく、自社の前モデル。外より中を向いてモノづくりに励んでいると思います」と推察した。
発表の時間が後ということもあり、ピンのハードグッズプロダクトマーケティング部・山崎力(りき)氏は全く逆の対応を見せた。「午前中(テーラーメイド)のYouTube配信はしっかり見させていただきました。やはり気になります、同日ですから。だからといってどうこうするわけではなく、他社は他社、ウチはウチでそれぞれの色を出すだけです」と笑顔で返した。
「ゴールは同じでもアプローチが違う」
「Qi10」発表会を見た感想を聞くと、「MOIに対するアプローチの仕方がお互い違うので、いろいろな考え方があることに感心しました。我々には、MOIを高めることで同時に懸念されるマイナス面を打ち消してきた歴史があります」と山崎氏。
「MOIの数字を上げるためには深低重心化は不可欠ですが、そこを追い求める段階で様々な弊害に直面します。スピン量が多くなって、初速が落ちてしまったり、ヘッドを大きくすることで空気抵抗が増え、ヘッドスピードも落ちやすい。そんな弱点を補いつつ、『G430 MAX 10K』はMOI1万越えを達成しました。MOIについては、18年発売の『G400 MAX ドライバー』のときから着目し、重量配分と形状を細部まで突き詰めてきました。長年かけて構築した結晶という意味では、他社とはだいぶ異なるアプローチだと思っています」
2018年というと、6年前にさかのぼる。ピンが「G」シリーズで深低重心化を押し進める一方、テーラーメイドはマルチマテリアル(複合構造)シリーズ「M3」「M4」を展開していた。今では当然のように同社モデルに搭載されている「ツイストフェース」を、初めて世に出した年。カーボンクラウンを搭載して深低重心化は図ってはいたものの、プレスリリース(発表時の商品説明)には、慣性モーメントの「か」の字も触れていなかった。
耐久性との戦い カーボンクラウンに試行錯誤したピン
ピンは「G400」から「G410」「G425」、そして「G430」と同じコンセプトを貫き、深低重心化の道をひた走っていたが、カーボンクラウンの採用は出遅れた。
耐久性を理由に、これまで採用していたのはヘッド体積440ccの「G430 LST ドライバー」のみ。今作『G430 MAX 10K』では、「カーボン・フライ・ラップテクノロジー」と呼ばれるラップ式を採用し、460ccで初めてカーボンクラウンを搭載。ソールまでぐるっと囲った一体型のカーボンボディで、耐久性を確保しながら深低重心化を図った。「今作はここが一番大きなポイントです」と語気を強める山崎氏。
「実は今作の『―10K』は、22年11月発売の『G430』シリーズと同時点で発売を検討していました。ですが、当時の技術では、460ccでの使用が難しく商品化を断念。そこで8層のカーボンを採用して強度を増し、『―LST』より曲線を緩やかに描くことで、一部分に負荷がかかりにくい形状にしました。これによってフレームを使用しなくても、そのままカーボンを組み込めるほど頑丈な構造ができ上がったのです」
マルチマテリアル化の第一人者が狙う “ブレにくさ”への挑戦
一方のテーラーメイドも、深低重心化を突き詰めていなかったわけではない。空気抵抗に着目した「SIM」「SIM2」を経て、22年からカーボンフェースの「ステルス」「ステルス2」にたどり着く。
「『ステルス』シリーズでカーボンフェースを採用したことが、今作でのMOIへの着眼点になったことは間違いありません」と話す高橋氏。
「わずか0.5gのウエートを動かすだけで重心は変化するもの。フェースがチタンからカーボンに変わったことで、約20gもの余剰重量を生むことに成功しました(従来チタンの43gから24gに)。どれほどヘッド全体の深低重心化に影響したかは計りしれません。そのうえでスピードとやさしさを共存できるのかを探った結果、左右だけでなく上下のMOIを上げることに着手しました」
今作で『HD』→『MAX』に名称を変えた理由も、単につかまり具合を強化したドローバイアス設計ではなく、ミスヒット時のヘッド全体のブレにくさを解消したから。構造自体をブレにくくすることで、スピードを落とさずに安定感を保つ。「寛容性をMAXに上げることも大事ですが、実は飛距離性能を落とさずに1万超えを果たしたことが最も意義深かった」と高橋氏は強調した。「ツイストフェース」から6年が経過し、スピードとやさしさを高い水準で共存させるべく、“ヘッド全体のブレにくさ”という同社にとっては未知の領域に挑んだ形といえる。
長年にわたり深低重心を追求した末に10Kに到達したピンと、カーボンウッドの進化を押し進めるうえで10Kに挑んだテーラーメイド――。MOI1万越えまでの道のりは違うものの、飛距離と安定感を両立させるという目標は共通していた。
最後に「ユーザーやメディアの方には、どんどん比較してもらいたい」と、テーラー高橋氏。「お互い切磋琢磨してギア業界全体の活性化につながればうれしい」。ピン山崎氏も、「考え方や経緯は違うにせよ、視点は同じ。どちらもミスヒットに強くて遠くへ飛ばしたいユーザーに向けた商品であることは間違いないと思います」と締めた。で、結局のところ違いは何!? 手に取ってからのお楽しみである。(編集部・内田)
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